……それでも、私は――
「あら、エルマ。出かけるなんて珍しいのね」
「……へっ? あ、うん」
「まあ、外に出るのは良いことだけどね。でも、遅くならないうちに帰るのよ」
「……うん、分かった」
それから、数十分後。
朝食を終え、ほどなく外に出た私に驚いた様子で告げる修道女。……そっか、珍しいんだ。私が、外に出るの。……でも、そうだったかも。彼と……ソレアと暮らしてから、徐々に変わって――
ともあれ、駆け足で到着したのは茅葺き屋根の純朴なお家。もう10年も暮らしていた、ほとんど我が家のような愛しいお家で。高鳴る鼓動を抑えつつ、軽く扉をノックする。すると、ほどなくして――
「…………君は、もしかしてエルマちゃん?」
そう、驚いた表情で呟くソレア。どうやら、私のことを全く知らないわけではなさそうで。
でも、別に驚くことじゃない。と言うのも――改変の結果、私がお世話になることとなったあの修道院は、彼も昔お世話になっていた修道院とのことで、よく一緒に挨拶に行っていたから。
だから、恐らくはその時のどこか――この新たな世界では、きっと一人で挨拶に来てたんだろうけど――その時のどこかで、修道院に保護されている私のことを些かながらも知る機会があったのだろう。……まあ、その反応や言葉からも本当に些かだろうけど。
ともあれ……うん、これなら大丈夫。きっと、私に対し何の情も抱いていない。少なくとも、今の彼からは微塵も感じられない。――私に対する、きっと生涯変わることのない溢れんばかりの『親愛』の情は、今の彼からは微塵も。
……ごめんね、ソレア。せっかく、私を育ててくれたのに。大切に、大切に育ててくれたのに……もう、貴方の中にその記憶はどこにもない。……まあ、記憶も何も無かったことになってるわけだし。
……それでも、私は忘れない。貴方のお陰で……大海よりも深い慈愛で以て育ててくれた貴方のお陰で、今の私があるから。
「――それで、どうしたんだい? エルマちゃん」
すると、ほどなくそう問い掛けるソレア。私のよく知る――それでいて、どこか違う柔らかな微笑で。
……うん、分かってる。これが、身勝手な――それこそ、裏切りにも等しい選択であることは。だけど、それでも……それでも、見てほしいから。大切な家族としてじゃなく、一人の女性として私を見てほしいから。だから――
「……貴方のことが、好きなんです。誰よりずっと……ずっと、好きなんです」
――もう一度、ここから始めてもいいですか?