願望
「……ごめんね、ソレア」
「ううん、気にしないで。それより、エルマの手が心配だ。痛むかもしれないけど、ちょっとだけ我慢してね」
「……うん、ありがと」
それから、ほどなくして。
リビングにて、穏やかな口調でそう口にするソレア。さて、事の経緯を説明すると――考えごとの最中、うっかり熱々のスープに手を入れ火傷をした私を彼が優しく手当てをしてくれているという状況で。……うん、ほんと申し訳ない。
「……それにしても、珍しいね。エルマが、あんならしくないミスを……やっぱり、何かあっ――」
「ううん、なんでもないの! ただ、ちょっとぼおっとしてただけ!」
「……そ、そうかい……?」
そう、再び心配そうに尋ねようとする彼の言葉を遮り捲し立てる私。……うん、言えないよね。貴方が、想い人に会えないよう企んでたなんて。
……ところで、それはそれとして――
「……ねえ、エルマ。随分と顔が赤いけど、ひょっとして熱が――」
「……へっ? あ、ううん大丈夫! ちょっとこの火傷が伝染しちゃっただけだから!」
「それは大丈夫じゃないよね!?」
私の返答に、驚愕の声を上げるソレア。……うん、我ながら何を言ってるのかと。
……でも、貴方のせいだからね? こんなにも顔が熱いのは。手当てのためとはいえ、ずっと手を……そのせいで、こっちは心臓が鳴り止ま――
「……うん、これで良いかな。でも、ちゃんと安静にしとくんだよ」
「……うん、分かった」
そして、そんな私の心中も露知らず、柔らかな微笑でそんなことを言うソレア。私の大好きな――なのに、ズキリと胸を刺す柔らかな微笑で。
……うん、分かってたよ。ただ、認めたくなかっただけで……本当は、とうに分かってたよ。だって、私は貴方を……貴方だけを、ずっとこの瞳に映してきたんだから。
――それから、翌日にて。
「……おや、待ちくたびれたよ嬢ちゃん。だけど……どうやら、決まったみたいだねえ」
例の薬屋にて、何とも愉しそうな笑みでそう口にするお姉さん。そんな彼女に、そっと首を縦に振る私。そして、ゆっくりと口を開き願望を告げた。