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その報告をもってきたのは、顔の知らない王家の使者だった。
―――王子が、婚約破棄をしたい、と。
つまり、こちらから公的に王子をフって欲しいという申し出だ。
そんな馬鹿なことを、何を突然、と両親は騒ぎ立てたが、当の本人、ベラドナは思っていたほどの衝撃もなく、軽い脱力感が胸の中をすとんと落ちただけだった。
ベラドナの家は古くから王家に仕えてきた名門中の名門だ。
王の相談役も務めた人物も輩出した文官の家でもあり、大きな戦争で多くの功績を上げた優秀な軍人も世に送り出している。
現在も元老院に発言権を持つ、泣く子も黙る大貴族である。長いその歴史の中で過去に何人もの妃を送り込み、王家との繋がりも深い。
そういう家柄であったから、長女であるベラドナが年頃の王子の妃候補に選ばれるのは至極当然の流れでもあった。
口々に使者へと文句を浴びせる両親を尻目に、ベラドナは鷹揚に言葉を投げる。
「ぜひ、王子にお会いしたいわ。よろしいですわよね?」
にっこりと微笑んでみせたにも関わらず、使者は真っ青な顔で彼女に肯いた。
まったく、失礼なことだ。