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勇者と魔王の新大陸冒険譚  作者: サケ/坂石遊作
第八遠征隊の上陸
3/36

3


 十二年の年月が流れた頃。

 帆船の甲板で、少年は鼠色の髪を風になびかせながら、果てのない水平線を眺めていた。


「ユーリ」


「ん?」


 背後からの声に、少年――ユーリは振り返る。

 背の高い男がこちらに歩いてきた。男はユーリの隣に立ち、海を見る。


「何を見ている?」


「新大陸。まだ見えねぇけど、あっちの方角なんだろ?」


 ユーリが答えると、男は「ふっ」と笑った。


「待ちきれないといった様子だな」


「ああ。ずっと行きたかったからな」


 前世から、ずっとな――。

 青々とした海原には時折大きな波が立っていた。そのうねりを見ていると、激動の十二年間を思い出す。


 路地裏で目を覚ましたユーリはすぐに現在地を調べ、自分がルクシオル王国の王都にいることを確認した。新大陸には船が出ていることを知っていたため、ユーリは港町まで向かう幌馬車の荷台に忍び込み、積荷の果物をいくらか貰いながらなんとか港まで着いた。


 ルクシオル王国は、新大陸を調査するために遠征隊を送っている。

 ユーリが港に着いた頃、第六遠征隊の人員募集がされていた。ユーリはすぐに飛びついたが、そこで自分が五歳の身体であることを思い出した。


 子供の来る場所じゃない。そう言われても引き下がるわけにはいかなかった。

 しつこく食らい付いているところを、偶々そこにいたとある男に根性があると勘違いされ、面倒を見てもらうことになった。


 十二年後、心に肉体が追いついてきたことで、ユーリは満を持して遠征隊の一員となった。

 第八遠征隊。それが、この船で新大陸へ渡る者たちの所属である。


「ロジール隊長! こっちに来てくださいよ!」


 遠くから聞こえたその声に、ユーリの隣に立つロジールは振り返る。

 第八遠征隊の一人である男が、楽しそうに笑いながら近づいてきた。


「騒がしいな、上陸までまだ二日あるんだぞ。体力が尽きても知らんからな」


「へへ、そう言わないでくださいよ。今、暇を持て余した奴らが腕比べを始めまして。隊長たちも参加しませんか?」


 どうりで船尾側の甲板から騒々しい声が聞こえるわけだ。

 既に一ヶ月近く航海している。新大陸への到着を前にして、暇潰しがてら一騒ぎしたくなった彼らの気持ちも分からなくもない。


 だが、第八遠征隊の隊長であるロジールは、国の軍人だった。

 軍人らしく我慢強い彼は、羽目を外す隊員たちを受け入れる寛容さは見せつつも、自らはそうならないよう自制する。


「俺は遠慮しておく。……ユーリはどうする?」


「……取り敢えず、顔は出してみるかな」


 前世は女神のせいで何一つ寄り道ができなかったからこそ、こういう小さなイベントにはつい顔を出したくなる。

 踵を返し、腕比べの会場へ向かおうとすると――。


「ユーリ」


「ん?」


「この船には俺たち第八遠征隊の他にも、自費で新大陸に向かう貴族が何人か乗っている。彼らを相手にする時は()()()()()()?」


 去り際に告げられたその言葉を、ユーリは頭の中で噛み砕いた。


「それ、どっちの意味で言ってるんだ?」


「言わなくても分かるだろう?」


 小さく笑むロジールに、ユーリも似たような表情で笑った。




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