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 資格、権能。それらの情報について、ガレスは順を追って説明を始めた。


「先程言った塔の中には石碑があった。それを、こちらの――」


 ガレスが隣に座る白髪の老人を見る。

 老人は小さく頷き、ユーリたちの方を見た。


「考古学者のハガットだ。ここ最近は翻訳者のようなものだがね。……私が石碑の内容を解読し、情報を入手した」


 塔が千年前に建てられたという情報も、この考古学者が調べた結果だろう。


「資格と権能の関係はシンプルだ」


 ガレスがユーリたちをざっと見て言った。


「資格とは、特定の能力を使用できる肩書きのようなもの。そしてその能力を権能と言う」


 ここまでは――予想通り。

 ユーリとマオは、その程度の分析なら済ませている。


「我々は既に幾つかの資格および権能の効果を解析している。獲得条件もだ。たとえば、そうだな……ミルエは〝治癒師〟の資格を持っているはずだ」


「は、はい。頭に、そういう声が響きました」


 ミルエが肯定する。

 ガレスは部屋の端に置いてあった大きな紙と文具を手に取り、ユーリたちが座る床に広げた。


「能力の説明を行おう。各自、獲得している資格をここに書いてくれ」


 言われた通り、ユーリたちは獲得した資格などを記入する。

 ミルエとレイドが指示に従う一方、ユーリとマオは無言で目配せした。


 ――宝座について伝えるか?


 ――隠せ。古今東西、有限の力は奪い合いになると決まっておる。


 なんとなく視線で互いの意思を交わし、ユーリとマオは宝座に関する情報を除いて目の前の紙に記すことにした。


 七つしかない特殊な力。そのうち三つは既に埋まっている。遅かれ早かれ、争いの火種になるのは確実な気がする不思議な力だ。沈黙は正しい気がした。


「レイド殿の資格は〝剣士〟か。相当な訓練を積んだようだな」


「ま、まあな! 父にもよく褒められたくらいだ!」


 ガレスの賞賛にレイドが喜んでいる。

 今までのレイドなら「当然だ!」の一言と共に、もっと傲慢な言葉でも口にしていたと思うが……ここに来るまでの道中でマオに言われたことが響いているのかもしれない。


 ミルエの資格はガレスが予想した通り〝治癒師〟だった。他はないらしい。


「ユーリたちは書いたか?」


「ちょっと待ってくれ。思い出すのに時間がかかる」


「…………………………思い出す?」


 ガレスたち第七遠征隊の隊員たちは首を傾げた。

 だが、ユーリとマオがいつまでもペンを走らせ続けることに気づき、やがて目を見開く。


「おい、なんだこれ……」


「この二人、とんでもない数の資格を持ってるぞ……!!」


 ユーリたちの持つ資格を見て、ガレスたちは騒然とした。


「〝魔獣討ち〟までは存在を確認しているが、〝魔獣殺し〟は初めて見たな。恐らく上位互換だろうが……〝剣鬼〟は何だ? 〝剣士〟とは条件が違うのか?」


「〝魔獣使い〟〝錬金術師〟〝設計士〟〝細工師〟……こっちの女の子も知らない資格ばかりだぞ」


 隊員たちが神妙な面持ちで二人の資格を確認する。

 それを横目に、ガレスがユーリに説明した。


「ユーリ。お前が持つ〝魔獣狩り〟関係の権能は《魔獣特攻》と言って、魔獣と戦う際に様々な力が向上するというものだ。〝魔獣狩り〟なら5%、〝魔獣討ち〟なら10%、恐らくその上位互換である〝魔獣殺し〟は15%向上する」


「あとで測定させてくれ」


 ガレスが説明した直後、ハガットが鼻息荒くユーリに頼んだ。

 ユーリは納得する。マオが言っていた最初のパワーアップ……あの大蛇を弾いた膂力は〝魔獣殺し〟の権能が発動した結果のようだ。


「〝剣鬼〟は分からんが、〝剣士〟と同じなら剣に関する様々な権能が使えるはずだ。《剣術》とか《斬撃》だな」


「ああ、その辺はあったな。あとは《明鏡止水》とか《超感知》っていうのもあるが……」


「……初耳だな。それが〝剣士〟と〝剣鬼〟の差かもしれん。」


 第七遠征隊のメンバーたちも、全ての情報を持っているわけではないらしい。だがユーリたちが所有する資格や権能は、彼らにとって研究を飛躍的に進められる新たな情報だったらしく、ハガットを中心に興奮が伝わってきた。


「ガレス。〝魔獣殺し〟を獲得した時、試練の魔獣って言葉を聞いたんだが……」


「それについては予想がついている」


 ガレスは一息ついてから、ユーリに尋ねる。


「深く考えずに答えてほしい。……血肉の通った魔獣という生き物と比べ、我々が知る魔物という存在はどこか()()のように感じないか?」


 偽物……。

 今まで、魔物とは血も肉も内臓もない、そういう存在だと認識していたが、この大陸で魔獣と遭遇してからは確かに偽りの生命のような感じがした。


「資格を入手するには条件を満たす必要がある。だが、お前も同じだと思うが、私は上陸してすぐに〝魔獣討ち〟の資格を入手した。つまり我々は、元いた大陸で既に条件を満たしていたことになる。そして、その条件が試練の魔獣と呼ばれるものを倒したことだとすると……」


 元の大陸で、百体も、千体も、一万体も倒したことのある存在。

 心当たりは一つしかない。


「試練の魔獣ってのは……魔物のことか」


 ガレスは首肯した。

 その瞬間、ユーリは頭に響いた声を思い出した。


 ――試練の魔獣を10000体討伐しました。〝魔獣殺し〟を獲得しました。


 大蛇と戦っていた時、確かにこのような声が聞こえた。

 注目するべきは、その数だ。


(魔物を10000体討伐……この数字、確実に()()の分を含んでいるな)


 今世では一万体も魔物を倒していない。

 どういうことだ?

 マオが使った《輪廻転生》で、ユーリは第二の人生を得た。

 だが、この大陸では勇者だった頃の人生と地続きだと認識されているのか?

 ユーリが脳内で疑問を渦巻かせる一方、マオも疑問を口にする。


「じゃが、試練の魔獣というネーミングはどういう意味じゃ。まるで人が魔獣と戦うための、練習用の魔獣と捉えられるが……」


「そう!! その通りなのだよ!!」


 マオの指摘に、ハガットが興奮した様子で答える。


「我々が知る魔物という生命! あれが練習用の魔獣だと考えれば色々と合点がいく! 死ねば姿を消すのは後始末を不要にするため! 成体しか存在しないのも、幼体では練習台にならないため! 極めて合理的な人工生命だ! だが問題は――――()()()()()!? ()()()()()()()()!? それが分からない!!」


 意図的に、そうであるようデザインされた生物。

 それが魔物であるとハガットは考えているようだが、真相はまだ未解明のままだ。


「そして――何故、我々のいた大陸には偽物がいて、この大陸には本物の魔獣(オリジナル)がいるのか。残念ながら、それも明らかになっていない」


 謎は深まるばかりだ。

 だが、予感する。……少しずつ真相に近づいている。


 この大陸にあるナニか。

 壮大で、謎めいた真相が、少しずつ輪郭を見せ始めている。


(……意図)


 そう、意図だ。

 何者かの意図。それがこの新大陸を覆い尽くしてるのではないだろうか?

 資格も、権能も、魔物も……いずれも何者かがユーリたちのためにお膳立てしているように感じる。


 その意図は、ユーリたちに戦う力を与えている。

 何のために……?

 ()()()()()()()……?


(……従っていいのか?)


 もし、自分たちが何者かの用意したレールの上を進んでいるのだとしたら、果たしてそれは安易に従っていいものなのだろうか。


「ガレス、お主はどんな資格を持っているんじゃ?」


「私は〝魔獣討ち〟の他に〝武芸者〟の資格を持っている。権能は《換装》だ」


 ガレスは右手でペンを握りながら、左手で床に落ちている紙片を押さえた。

 次の瞬間、ガレスの右手からペンが消えて紙片が現れた。左手はペンを押さえている。 その手で触れているものが、一瞬で入れ替わったのだ。


「このように、瞬時に装備を切り替えることができる。ただし装備自体は私の身体に触れていなくてはならない。〝武芸者〟の獲得条件は、複数の武器を一定の習熟度で扱えることだ」


 マオが「ふむ」と納得する。

 だがユーリは知っていた。その力は、ガレスが旧大陸にいた頃から使っていたものだ。当時はガレスもその力を祝福と呼んでいた。


「………………権、能」


 小さな声で呟くミルエは、顔面蒼白となっていた。

 ああ、これは……。

 気づいてしまったようだ……。


「シスター・ミルエ」


 ガレスが真面目な顔でミルエを呼ぶ。


「落ち着いて私の話を聞いてほしい。〝治癒師〟である君が持つ《治癒》という能力は、権能だ。()()()()()()()()()()()。……事実、女神様のことを信奉していない者も、条件さえ満たせば誰でもその能力を手に入れられる」


 女神に対する信心がなくても、治癒の力は手に入る。

 つまり、祝福が女神からの寵愛であるという考えは……。


「どうやらこの力は、女神から与えられるものでは――」


「――有り得ません!!」


 ミルエはガレスの言葉を遮るように叫んだ。


「祝福は神の導き! こ、こんな、誰もが使えるものでは……ッ!!」


 ミルエは涙ぐみながら抗議を試みていた。

 しかし内心では疑問だったはずだ。第七遠征隊の拠点には、当たり前のように祝福を使っている者たちがいたが……あんな光景、元いた大陸では()()()()()。本来なら祝福持ちはエリートの証。どこにでもいるわけではないのだ。


 ミルエがこれまでの常識を捨てるか貫くか、それは彼女自身の選択に委ねられる。だが貫くとしたら、祝福が女神の恩寵であると信じ続けることになる。これから先、ユーリたち遠征隊は様々な祝福を――即ち権能を獲得していくだろう。手当たり次第に与えられる力を、彼女はいつまでも尊い恩寵だと思い込むことができるだろうか。


 ミルエも既に気づいているはずだ。権能が、祝福が、女神の恩寵だとしたら…………随分安い恩寵である。


「ガレス」


 しばらくミルエは会話に混ぜない方がいい。

 そういう思いも込めて、ユーリはガレスの名を呼び、こちらを向かせた。


「この大陸には、魔物のオリジナルがいて、おまけに俺たちが祝福と呼んでいた能力も手に入りやすい環境ときた」


 これらの情報から、推測する限り……。


「……もしかしなくても、元は全部この新大陸から流出したものなのか?」


「その可能性が高いと我々は考えている。祝福も、魔物も、いつどこで発生したものなのか誰も突き止められずにいた。だが、それがこの大陸に来てからみるみる解明が進んでいる。……新大陸が全ての発祥である可能性は極めて高い」


 ガレスたちも同じように考えているようだ。


「以上が、第七遠征隊の主な調査結果だが……最後に、どうして我々が第八遠征隊と合流できなかったか説明しよう」


 ガレスがそう言うと、他の隊員たちも静かになった。

 よほど深刻な状況に陥っているようだ。


「現象が解明できていない以上、結論だけ伝えるぞ」


 そう前置きして、ガレスは告げた。


「我々、第七遠征隊は――――閉じ込められている」


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