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勇者と魔王の新大陸冒険譚  作者: サケ/坂石遊作
第八遠征隊の上陸
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 拠点から離れ、ユーリたちは海辺で話すことにした。

 大蛇に噛み砕かれた船の破片が辺りに散らばっている。ユーリとマオは、それぞれ船の破片に腰を下ろし、向き合った。


「まず、お互い頭の中に聞こえたものを出し合ってみないか?」


「賛成じゃ。覚えられんから、ここに書くぞ」


 マオが細長い棒を二本創造して、そのうちの一本をユーリに渡す。

 ユーリとマオは、それぞれ砂浜に文字を書き出した。


「俺の方はこんな感じだ。〝魔獣狩り〟〝魔獣討ち〟〝魔獣殺し〟〝剣鬼〟……あとは《斬撃》、《剣術》、《明鏡止水》、《超感知》っていう権能だな。うろ覚えだが、最初の三つは上書きされていって、最終的に〝魔獣殺し〟だけが残った感じだったと思う」


「妾は〝魔獣使い〟〝錬金術師〟〝設計士〟〝細工師〟じゃな。……妾の方は上書きされたような感覚はなかった。権能は《創造》と《輪廻転生》じゃ」


「そういえば《輪廻転生》とかあったな」


「うむ。しかしこっちの方は妙なことを言われたのぉ。確か、該当する資格がないとか、不正だとか……」


 何のことだかサッパリだ。


「というかお主、〝剣鬼〟って……勇者時代の異名ではなかったか?」


「……偶然だと思いたいな」


 正直あまり好みの異名ではない。

 だが勇者と比べれば、些かマシかもしれない。


「他には、試練の魔獣……それと、深域耐性だったか」


「試練の魔獣は妾も聞いたのぉ。なんとなく獲得条件のように聞こえたが。……深域耐性とやらは聞いてないのじゃ。逆に妾は、なんとかノアっていう単語があったのぉ」


「なんとかノアってなんだ。……そっちは俺は知らないな」


 共に聞いているものと、一方だけが聞いているものがある。

 急に考察しなくてはならない要素が増えてきた。こういう時は、確定できる情報から優先して考えた方がいい。


「今話したいのは、権能っていうキーワードについてだ。……この言葉、魔族も使っていたんだよな? 誰が言い始めたんだ?」


「邪神じゃ」


 端的にマオは答えた。


「邪神が神託で周知したのじゃ。この力は権能と呼ぶものだと」


「……曲がりなりにも神だ。そっちが正式名称っぽいな。祝福っていうのは、人類側が勝手につけた名前だし」


「少なくとも祝福ではない」


 マオは断言した。


「お主も分かっているじゃろう。本当にあの神どもが、人類や魔族を祝福すると思うか?」


「……ないな。あいつらは、俺たちのことを玩具にしか見ていない」


 ユーリは頭の中にある辞書を開き、祝福という単語を権能に置き換えた。

 名称が正式かどうかは実際のところどうでもいい話である。

 大事なのは、祝福=権能という等式。

 つまりユーリたちは、この大陸で権能と呼ばれている概念を、ずっと前から使っていたことになる。


「人類にとって、この力は信仰心に対する女神からの見返りとされていたんだが……実態はそうじゃないってことか」


「女神と邪神は他者に権能を与えられるようじゃから、間違いとは言い切れんのじゃ。とはいえ、見返りというよりは面白半分で権能を与えているような印象じゃのぉ。実際、女神も邪神も憎んでいる妾たちが、この大陸でポンポンと色んなものを手に入れた時点で見返りではあるまい」


「…………これ、女神教会の関係者には黙っておいた方がいいな」


「うむ。今は混乱させるだけじゃ」


 シスターのミルエと、巡光騎士団のイヴン。この二人には、今の情報は伏せておいた方がよさそうだ。


 祝福とは女神に与えられし尊き力。……そう信じている彼らに、実際のところ信仰心は全く関係ないと伝えるのはあまりにも惨すぎる。


 だが、いつかは向き合わねばならない。

 新大陸の調査が進めば、いつか必ず隠しきれない時が来るだろう。


「ところでお主、手に入れたのは本当にそれだけか?」


「ん?」


「最初のパワーアップは妾とお主で同時に行われたはずじゃ。しかしお主はもう一段階、更に強くなったじゃろう」


「……あ、そういえばまだあったな」


 ユーリは砂浜に棒で文字を書く。


「宝座って言ってたな。確か……空の宝座だ」


「宝座。……また新たな単語が出てきたのぉ」


 マオは「ふむ」と考える素振りを見せた後、一振りの剣を創造し、ユーリに投げ渡す。


「ちょっとあっちに斬撃を放ってみるのじゃ」


「分かった」


 ユーリは立ち上がって剣を構えた。

 斬撃の祝福――いや、斬撃の権能を発動する。

 放たれた斬撃は空を駆り、海を裂いた。


「あれ?」


 いつもと手応えが違う。

 妙な違和感に、ユーリは首を傾げた。


「拡大しておるのぉ。というより、これは……拡散じゃな」


「どういうことだ?」


「射程が延びているじゃろ? お主の斬撃は、従来のものと比べて拡散しておる。広く、薄くなっているということじゃ。お主が勇者だった頃から嫌というほど見てきた技じゃから、間違いない。恐らくこれが宝座とやらの影響じゃな」


「他の影響の可能性もあるんじゃないか? たとえば〝剣鬼〟とか……」


「それは一度目のパワーアップで手に入ったものじゃろう? その時の斬撃は、威力が向上しているだけで拡散はしていなかったのじゃ」


 あの激戦の最中、マオはそこまで細かく観察していたらしい。


「ふむ……権能の効果を拡散、或いは()()()()()といったところか? 空の宝座……字面が他のものとは一線を画するのぉ。まだ何かありそうじゃが……」


 マオは思考の海に没頭した。宝座について考えているらしい。

 逆に言えば、威力の向上は宝座と関係ないということだ。それは〝剣鬼〟の影響か? それとも〝魔獣殺し〟の影響か? なんとなく剣術に関するものは〝剣鬼〟が影響していそうだが、あの時は身体能力が全体的に向上していた気がする。となれば……。


(……身体能力の向上は、恐らく〝魔獣殺し〟の影響だな。字面から察するに、魔獣との戦闘で効果を発揮するものか)


 ユーリがその結論に達したことには理由がある。

 似たような祝福を知っているのだ。だから、そういう能力がこの世界に存在することは納得できる。


「ユーリ、宝座についてもう少し説明してほしいのじゃ」


「いいぜ。あれは新大陸に着いた当日。燦々として降り注ぐ陽光に、目を細めていた時だった」


「お主、さては複雑な話が好きではないな」


「バレたか」


 呆れたような目で睨まれ、ユーリは肩を竦めた。

 苦手ではないが、得意でもない。なのでちょっと飽きていた。こういう役割は勇者だった頃も他の誰かに任せていたのだ。


 観念したユーリは、端的に必要な情報を伝えた。

 大蛇との戦闘中、死にかけた時、いつの間にか真っ暗な空間に立っていたこと。

 そこで、六人の男女と出会ったこと――。


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