日付不明 じゃあ昼間からやるか?
「一つ、不満がある」
少し遅い昼食の後、空になった皿を片付けようと立ち上がった狩人に、吸血鬼は神妙な顔をして語り始めた。
「……何に?」
「お前がやってる途中で『もう眠いからおしまいね』ってなって強制終了するとき、けっこうな頻度であるだろ。あれがすっごく嫌だ」
「ごめん、何の話?」
「セックスだよ!」
気まずさによる少しの沈黙の後、狩人は皿を持たずに座り直す。
「それは君が、夜にばっかりしたいって言いだすからだろう」
「じゃあ昼間からやるか?」
じっと見つめる吸血鬼の蜂蜜色の目に、狩人は一瞬言葉に詰まった。
「……何も予定がない日なら、そのほうがいい。断ることもあるかもしれないけど」
昼から初めて夜中まで、時間と睡魔の許す限り続けることになりそうではあるが。
「じゃあ今日は?」
今日は何の予定もない。全ての用事は午前中に済ませたし、あとは家の中の用事くらいで、なんとでもなる。
「……うん。いいよ?」
「よし」
吸血鬼は狩人に、飢えたハイエナのように飛びついて押し倒す。羽のように軽い体だったが、肩を抑える手は奇妙に重い。舌を入れて深く口付けし、跨った尻をへこへこと腰に押し付ける。
「今やろう。すぐやろう。この家のありとあらゆるところで。俺さ、布団の上以外でやってみたいと思ってたんだよ」
「どいてったら。皿片付けてからね」
「そんなん後でもいいだろォ~?」
「よくない。君は君で準備が要るだろ。酷い目に遭うぞ」
つんと唇を尖らせて、吸血鬼は狩人の身体の上から退く。
名残惜し気に、猫のように手を握り、慎重に身体に手の痕跡を付けながら後ろに引き下がり、立ち上がっては恨めしげにじっとり見降ろす。
見下ろされても可愛らしい目だ、と狩人は思う。普段なら腹が立つはずなのに、求められているとわかっているから嬉しいのか。きっとそうだ。何とも言い難い。
「……わかったよ。風呂にいるから、皿片付けたら来て」
素足で口惜し気に股間を柔らかく踏んでから、吸血鬼はぺったんぺったん足音を立てて板張りの廊下を行く。
宿敵とはどうしてああも可愛らしいのか。重ねた皿を運びながら狩人は思う。一生を共にしたい。この仕事が終わったら、二人でどうやって生活しようか。