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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
日付不明 二年目
90/104

日付不明 十二分の一スケールのシャンジュ

ここからの一連の話は理人がいっそう気持ち悪い話です。お楽しみください。

「何作ってんだ」

「シャンジュの可動フィギュア。ヤスリかけてるから近付くときはマスクしてね。粉飛んだら危ないから」

 は? 俺の可動フィギュア? 何のために? 俺の肖像権は? やったら小さくね? なんでそんなところに点を彫ってる? 本物がここにいるのに? 俺そんなガリガリだったっけ? 今削ってるパーツお尻? 様々な問いが頭の中から増えては浮かび、オーバーフローした吸血鬼はその場にへたり込んだ。

「そろそろお昼だっけ? 今何時?」

「……そうだな。そろそろ休憩するか?」

「うん。ご飯何にしよう。考えてなかった」

 狩人は服や手に付いた粉を庭先に払い、脚を痺れさせたようにふらふら立ち上がった。手を洗い、食事の用意をする。吸血鬼はその背をだらだらと眺めていた。

「触んないでよ、まだ粉塗れなんだから」

 言葉で牽制された吸血鬼は、自分の粘土細工に鼻先近くにまで近付いて、ただ眺めるだけに留めることにした。ヤスリをかけたばかりで白い粉塗れである。本体は黄色っぽい粘土で、関節部分は出来あいのものらしい白色。いや一体どこで買ってきたんだ。近所のスーパーマーケットや家電量販店にはないだろう。大量生産されるような品ならば理人のように可動フィギュアを作る変態はこの日本に数多いということか。嫌だぁ。吸血鬼の疑問はさらに募った。

 さて狩人が作った今日の昼は冷製うどんである。氷水で締められた麺には濃い目のつゆがかけられて、刻んだキュウリとチューブの梅干しのたたき、かつおぶしが乗っけてある。食事とは一つの食卓を囲む者たちの団欒の時間であるからして、吸血鬼には都合良く、己が抱えた疑問を解消する時間が与えられた。

「なんで俺の可動フィギュアを作ったんだ?」

「まだ全然途中だよ」

「そうじゃねえ。なにゆえ? 何の目的で?」

「……作りたくなったから。では、……ダメだろう」

「よくわかってんじゃねえか」

 狩人は少しの逡巡の後、重そうに口を開いた。

「形代、というものを知ってる?」

「おう。己に降る厄を代わりに受けさせたり、呪いの対象に釘刺してアレだろ」

 一緒に生活していて、風呂に入るときは身体を洗わせることすらする。抜け毛を拾い集めるくらい容易にできるだろう。顔に当たる部位はあったが、頭髪に当たる部位は見受けられなかった。逃げた時に釘を刺して足を止める。可動部位は代わりが効くらしいから、脚を引っこ抜いて止めるとか、出来るかもしれない。上手いもんだ。

 意外と真面目な理由だったことに拍子抜けしたのち、吸血鬼は胴らしき部位に付けられた乳首を思い出した。あれは明らかに己の勃起した乳首を模していた。本物に比べてかなり大きい、気がする。

「でもさ、それだったらあんなに細かくエッチに作る必要ないじゃん」

「エッチだと思ったなら君の身体がエッチなんだ」

「よく見て再現してる理人くんのほうがエッチだろ。観察眼優れて手先も器用だ。どうせ一人の時にあれ見て見抜きしてぶっかけるんだろ。スケベさんがよぉ」

「それが心配なら僕を一人にするな。君だって一人でしたくはないんだろ」

「……それは、確かに?」

 狩人のこれは決戦の日、三月の春分が近づけば狂奔しかねない吸血鬼への秘かな釘刺しだった。

「それに再現できるところはしておいたほうがいいだろ、形代なら。それから自分の腕を試したくなった。僕が何日一緒に居て、何回抱いたと思ってるんだ。再現できないわけがない」

「お前毎度毎度ねちっこく触るもんな」

「君の身体、特に表面は、君よりも知ってると思う。ほくろの位置と大きさまで知ってるんだ。内臓は殆どわからないけど」

「普通の人間にしても内臓わかってたらキモイって」

「……結婚したら、健康診断の結果くらい見せ合うだろ」

 お前絶対そういう意味で言ってないよな。思いはしても、吸血鬼は口に出さなかった。話がまた取っ散らかってしまう。

「自分が知ってる俺の姿はエッチだからエッチだってこと?」

「……多分、そう」

「そのわりに股は作り込んでなかったな」

「おちんちんって、可動するには作り込んだものは邪魔じゃん。粘土って皮膚と違って簡単に曲がらないし」

「そっかぁ。理人くん女の子の穴知らないもんな。俺に女の子になって欲しいって言うけど、そっかぁ。フィギュアの俺には作れるんじゃないの? でも知らないんじゃあ仕方ないよなあ」

「えっ、……ああ、そういう発想は無かった。でもいいいかもな、今夜なってみてよ。参考にする」

「やなこった」

 吸血鬼はべーっ、と行儀悪く舌を出す。ただ自分のスケベ思考を開示しただけだった。そうとなったら話を逸らしたい。

「それよりあの関節何? どこで買った? 可動させる必要性無いよな?」

「フィギュアとか、プラモデルとか、おもちゃの専門店で買った。動いたり、外せたほうが何かといいだろ、布の服を着せたいし」

「何かとぉ?」

 絶対エッチなことに使う気だ、と思っている目を吸血鬼は狩人に向ける。ズルズルと麺を啜って狩人は追及をかわす。腹は減っているし、目の前にある飯は食いたい。

「フーン。布の服。お前の箪笥漁ったら出て来る?」

「やめろよ」

「あるんだぁ~?」

「まだないよ。これから用立てる」

 じゃあなんで漁るの嫌がったんだ。それなら他に見られたくないものがあるかもしれない。今度留守にしたとき漁ってみるか、と思う。

「フィギュアの俺、尻でかくない? 好み?」

「君はあんなもんだよ。客観視して。鏡を――見れないんだったな。後で巻き尺で体のありとあらゆるところを計ってやるから」

「いい。そんなことするな。お前にさんざん揉まれたからでかくなったんだ。本来はそんな大きくない」

「大きくなるポテンシャルがあったってことだろ。いいことだよ」

「あんだとぉ」

「麺伸びるよ。ちゃっちゃと食べちゃって」

 吸血鬼は肖像権侵害のお咎めをそこそこに、さっさと麺をずるずる啜る。狩人は食器を洗い終えると、再び人形作りの作業に戻る。

 遠巻きに作業を眺めつつ、吸血鬼はこんな真っ昼間に起きちまってさてどうしたもんかね、ゲームの続きでもやるかとテレビを点ける。

「……それ、自分のは作らないのか」

「自分?」

「お前のだよ。理人。お前の像」

「作らないよ……呪いって言っても、自分にかけるために作ってるわけじゃないから。君だけでいい」

 しばらく接続確認のため時間を取る。頭上では煌々と布団マットの通販が流れている。テレビは何かと便利だがこの光を間近に浴びる羽目になるのは嫌だ。一連のセットアップを済ませ、あとは座椅子に腰かけコントローラーやらリモコンやらで操作するだけにする。

「自分で作ったら?」

「……いいわ。本物いるし。エッチなこともぜ~んぶお前にやってやる」

 チャンネルを切り替え、ゲームの画面をテレビに映す。十年ほど前の最新機種だが、これからやるのはもっと古い移殖されたゲームだ。

「それから、もう一つ。君は写真にも鏡にも映らないだろ。出来るだけそっくりに作ったから、ちょっとでも、一緒に写真とか、記録に残るかなって。一緒に成長はしてくれないけど、まあ、それは……その都度作るよ」

 吸血鬼の姿かたちは、昔なら絵画に残された。現在ならばミニチュア可動フィギュアだ。やってることは変態チックなことこの上ないが、意外と真面目な回答ばかり用意していることに驚いた。離れた数週間の間に口が上手くなったのかもしれない。この男に限ってそんな卑怯臭く小手先を上手くするような真似は無い、と思いたいが。

「だからってあんなエッチな乳首は作らなくてもいいだろ」

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