日付不明 君への矛盾した感情の正体:キュートアグレッション
二年目の話です。この話から加速度的にボーイズラブしていきます。
山中の夜闇に部屋がぽっかり浮かんでいるようだった。
「実は、この前の三月さ、君がいなくなってからずっといろいろと考えてたんだけど」
夕食中、虫たちの静寂を破り狩人が唐突に話を始める。この家の机は三〇六号室のちゃぶ台と違い方形で、二人は共に食事をとるたびに真正面から向かい合って話すことになり、時折これが都合よく働いた。狩人の実直真正面な性質とは、特に良く嚙み合っているようだった。
「僕が君のことを可愛いって思ってても、噛んだり、どうしようもなく傷付けたり、殺して永遠に僕のものにしたいって思うのは、可愛いものに対する攻撃性、キュートアグレッションっていうんだって。食べちゃいたいくらい可愛いっていう……慣用句? あるだろ。あれ。でも本当に傷付けることは、ほとんどないみたいだけど。それはきっと僕の心が未熟なせいで……きっと、乗り越えられるか、永遠に治らないと思う」
「ふーん」
吸血鬼は箸に置いたご飯を口の中に入れたまま、感心なさげに返事した後、狩人の思考の分析結果を自分なりに噛み砕いた。次のおかずは何食おうかなと箸を行儀を失さない程度にねぶり考えながら、狩人の言葉の嚥下に十分な時間をかけた。それから。
「お前俺のこと可愛いって思ってたの!?」
「そうだ。ごめん、あまり言ってなかったね。僕は君のことを可愛いと思ってるんだよ。たぶん、この世の誰よりも、ちょっとどうかしちゃってるくらい」
「マジかよ」
激重~。聞いてなかったな。どうかしてるとは思ってたけど。前に言ってたっけな。言ってなかったような気ィするけどな。吸血鬼は箸からタケノコのおひたしをご飯の上に取り落した。ついでにご飯と一緒に食べればいいやと思いながら、尻の位置を調整する。なんだか妙に据わりが悪い。
「そのわりにお前のほうから夜のお誘いはしてくれないじゃない」
「それとこれとは話が別だろ。僕は君と一緒に居られれば、それでいいんだ」
「嘘つけ。……だから疲れたっつって、愛撫だけで済ませる日もあるって?」
「君は気持ちいいんだからいいだろ。僕は眠いんだから」
「焦らしただけって言うんだよそういうの。ちゃんと全部で触って。俺は体も心も全部、芯まで触れ合いたくってやってるんだから。離れてっちゃうかもよ」
「脅しか」
「どうとでも捉えればいい」
「安心してよ。離れたらこっちからくっつく。僕は永遠に君を追い続ける」
狩人の視線に、腹の奥からぞくぞくと、恐怖に似た感情が湧き上がる。飯を食っている間に起こっていい感情ではない。吸血鬼は首筋をぶるぶる振るわせ、人のように食事を続けた。
「それ俺以外の奴に言ったらストーカーだからな」
「わかってる」