日付不明 白昼夢
アルファポリスの近況ボードに書いたやつ二つです。
@その1:先生と俺
「おまえはこれを読み、理解し、畏れなければならない。」
彼の前に放り出されたのは一冊の分厚い本だ。呆然と眺め、箔の凹みを指で押し、縁の膨らみを潰した。
彼にとって文字は連なった小さなおもちゃだった。繋がった曲線を塗りつぶし、繋がらぬ曲線を繋げ、点に穴を開け、最後には紙自体を破く。
あるいは目に留まらないか、手に届かない模様でしかなかった。
「おまえは知らねばならない。おまえ自身を、そして吸血鬼の生きるすべを。」
数年して、幼い吸血鬼はその本を読めるようになったが、終ぞ理解はしなかった。
@その2:ファースト・エンカウント(あるいは狩人の物心)
「ダメだ」
義兄に否定されて安心していた。
「人を傷付けて、それを嬉しいなんて思っちゃいけない。たとえそれがお前の倒すべき運命だとしても。敵でも傷付けて喜ぶなんて、正義の味方のやることじゃないよな」
じゃあ自分は正義の味方ではない。そんなものなれなくていい。あこがれもしない。反骨心に下を向くと、雪が剥けた地面が見えた。
義兄は肩をすくめて、頭をぽんぽん叩いた。それから小さな肩を抱いて、無理やり帰路に引っ張っていった。歩く気が無さそうなら脇に抱えるつもりでいた。
朝日が木々の頭に被さって、長い影を作っていた。
「帰ろう。お前の秘密は内緒にしといてやる」
ただ彼をもっと知りたいだけだった。