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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
十二月・浮かれ切った年の瀬に
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12/31(水) 大晦日

 吸血鬼が日本に暮らして八か月余り。それなりの家事をこなし、暇を見つけては本を読んだり、人間と交流したりして時間を費やしてきた。季節に合った食事があるということは、当然把握している。

 大晦日には年越しそば。万能の調味料であるめんつゆを推奨される比率で割り、素の蕎麦では味気ないので、年末価格になる前に買った赤いカマボコと刻みネギを添える。

 これだけではちゃぶ台の上が寂しいか。もう後はたくあんだけでいいや。たくあんがあるのだから、現代になって生まれた数々のお節料理のパックを開けるのは、明日の朝でいいだろう。お節って正月に食べるものらしいし。

 あとは雑煮だろうか。作り方は記憶している。材料もある。ちゃんと調べた。伝統料理ゆえ各家庭で作り方が違うらしい。親を殺し七つの海を渡ってやってきた吸血鬼に積み上げて来た料理の知恵は無い。新しい伝統の創出だ。懸念は狩人が食べたいと言った時に自分が起きていられるかだ。年末年始にはあらゆる店が閉まるため様々な年末年始の用意をしてはいるが、必要最低限の調理の手間だけはどうにもならない。狩人は料理という者に病的なまでに関心が無い。放っておけば何も食べないことすらある。

「年越しそばだぞ」

「わあ、すごい年末って感じがする」

 この家に来てそばを食べたことが無い。そもそも暖かい蕎麦は初めて食べるかもしれない。夏はだいたい素麺かざるそばだったし、温かい麺類を食べるときはだいたいインスタントのラーメンかお安いうどんだ。乾麺の蕎麦が入り込む余地はない。そもそも米のほうがよく食べるから、麺類はインスタントを常備していても食べようと思わなければ食べない。タイミングが合わないとまとめて作れないし。面倒のほうが多い。冷凍のご飯をチンして食べたほうが楽だ。

「去年までこうやって食べること無かったからさ。日本の年末って感じする」

 狩人はニコニコ笑ってそこそこいいそばを啜っている。

「去年までは何してたんだ?」

「炊いたご飯食べてた」

 季節感は欠片も無いという。そんな雑な食生活をしていれば、人の作った飯が恋しくなるわけだ。

「俺が来て良かっただろ?」

「うん」

 狩人は幸せそうに笑っている。

「シャンジュは、うちに来てよかった?」

 吸血鬼は付き合いで笑っているだけだ。媚びるように狩人の目を覗く。

「まあな」

 お前が好きになって俺を殺さないと決まらない限り、何も安心できることはない。

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