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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
十二月・浮かれ切った年の瀬に
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12/23(火) 大掃除

 今日は朝から狩人がドタバタ騒がしかった。周りが騒がしくて起きることもあるようになった吸血鬼は、しかめっ面して押し入れの戸を開けた。

「なンだようっせーなぁ」

「冬休み入ったし、大掃除するよ」

「毎日どこかしらやってんだろ掃除なんて。必要ねえよ」

「僕は要るんだよ。風呂とか普段あんまり掃除してないんだから」

 吸血鬼は風呂を使わない。水場、特に風呂の掃除は狩人に一任している。

「勝手におやりよ」

「君も最近押し入れの掃除した? 湿気て腐ってない? 埃っぽくない?」

「ダイジョブダイジョブ。そっちの方が俺には都合がいいんでね」

「僕も使うんだから。ここ借りてるんだから、頼むよ」

 吸血鬼は寝っ転がって本を読み続けた。明日はクリスマスイブだ。この日、特に夜を最後に町は一気に年末ムードになるという。二十五日になったら年神様とやらを迎える準備をするか。吸血鬼は楽しそうなことは全てやってしまおう、と思っていた。宿敵と同居しているにも拘らず安穏とした生活を送れるこの場所に住む日々も、よく考えればあと三か月も無い。

 吸血鬼は、気合を入れて風呂の掃除をしている狩人のところに行く。

「クリスマスケーキ、明後日でいい? 明日は無理だ」

「いいけど、何かあった?」

「ケーキ屋がメチャ混んでるだろうからさ。そもそも予約してないと買えないとこもあるし」

「……手作りじゃないの?」

「はァ~~? 舐めてんのか?」

 吸血鬼は、街で見かけるチラシや絵本で見るようなふわふわのスポンジケーキは難易度が高いことを知っていた。あれを自分の手で作るなど、まして大した装備の無いこの家で作るなど、正気の沙汰ではない。何事も初めてはあるものだから今いきなり初めてを捨ててしまうのもやぶさかではないな、と吸血鬼が考え始めていたころ、狩人があからさまにがっかりしたような様子で、話をしている間流れ続けていたシャワーを止めた。

「この前、たぶん月の初めにさ、ジンジャーブレッド作ってくれるって言ったのに……」

「ジンジャーブレッド? ああ……」

 吸血鬼は少し心を巡らして、この前借りたクリスマスの絵本を思い出す。ジンジャーマンクッキー、ジンジャーブレッド。言葉は似ているが別物だ。狩人はあれをケーキのほうだと思っていたらしい。

「俺が言ったの、クッキーだぜ、あれ。人型したやつ。それはそれで材料買って作ってやっから、ケーキは明後日。ふわふわのスポンジケーキ買ってくるから」

「ジンジャーブレッドは?」

「あー、わかった。明日作ってやるよ。ケーキもクッキーも」

「やったぁ、ありがと」

 狩人は花が綻ぶように、心の底から嬉しそうに笑う。感情を素直に表すやつだ。だから可愛らしい。飯を作ってやる甲斐もある。

「買い物行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

 掃除はしないが、今から出来るクリスマスのご馳走の用意をしてやろう。吸血鬼は外に出掛けられる服に着替えた。べしょべしょのスポンジでもいいなら作ってやろうか、とも機嫌よく考えたが、行きしなに再びスポンジケーキの作り方を調べたところ、あまりの手間の多さに自信を無くしたり面倒くさくなったりして、やめた。

 ジンジャーブレッドは作ってやる。人のクッキー型も買ってやる。二度と使わないだろうけど。

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