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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
九月・歯型(官能的につき話抜け多し)
47/104

9/25(木) 吸血鬼、体調不良

 頭痛がする。吐き気もだ。偉大なる吸血鬼、ダスクのクドラク様が。二日酔いだと。

 この前読んだ漫画の中の、妙に印象的な文句を思い出した。原因はわかりきっている。吸血鬼は耐えられずに起き、頭を押さえながら押し入れの上の段からずり落ちる。

「大丈夫?」

 心配そうに見下ろす狩人に、吸血鬼は上記のようなことを言った。

「バファリンいる?」

 ふざけた言葉に返ってきたのは優しい言葉だった。そういう男だ。吸血鬼は「いる」と言って、だらだらと立ち上がる。

「あれ、お前、学校は?」

「今起きたんだよ。おはよう」

 この家には無駄に多くあるコップに水と粒薬二粒を皿に出してくれる。起き抜けにこんなに優しいなんて、どういう精神してんだと吸血鬼はちゃぶ台に縋りつく。吸血鬼はその行動が彼自身の善性によるものであることをまだ知らない。

「ご飯まで……」

「やっぱ無理して飲むことなかったんだよ」

「飲みたいんだから飲んだんだよ。体力使ったし、腹減ってたんだ」

 パンのおこげとインスタントのコーヒー、卵の焼けた臭いがする。こういう時に人は人を好きになるのだろう、と吸血鬼は思う。

 ヤバい。俺がこいつのこと好きになってどうするんだ。そう思い直し、吸血鬼は薬を水で呑み下す。

「大丈夫? ご飯食べれそう?」

「そんなんわかるわけないじゃん……」

 つんけんした態度で言ったのが自分の気に障り、吸血鬼はさらに落ち込んでしまった。

「俺みたいな駄目な奴が宿敵でごめんね」

 ちゃぶ台に突っ伏したまま、吸血鬼は言う。俺は一体何を言っているんだと先程の自分の弁明にすら腹が立つ。

「理人の分も皿洗っとくから。時間無いだろ。いってらっしゃい」

「うん。……じゃあ、よろしく。行ってきます」

 戸締まりをして狩人は出て行く。

 一人残された吸血鬼は、なんでこの俺が体調を崩したというのにあいつは出掛けるんだと元気なく怒り、朝食を平らげた。体調不良で情緒不安定になっていた。

 そして日が沈むか沈まないかくらいのときに、狩人が帰って来た。夏に比べればだいぶ日が沈むのも早くなってきていた。吸血鬼は使った分の皿を洗った以外は一歩も動かず、狩人の布団に横になって、洗濯物のはためく窓の外をぼうっと眺めているだけだった。

「おかえり」

 吸血鬼が「今日何もしてないわ」と報告すると、狩人は顔の前でしゃがみ込んで、いたずらっ子のように性悪く微笑んだ。

「君、そっちのほうがしおらしくて可愛いよ。ずっとそんな感じでいればいいのに」

「正気か?」

 粒薬を皿に置く程いい奴なのにそういう意地悪は言うんだ。そしてたぶん俺にだけ。吸血鬼は顔に落ちた影に腹が立ち、もう体を起こすことにした。

 頭痛はそれ程酷くなくなっていたので、吸血鬼は昨日買いためたらしい食料を使って夕飯をでっち上げることにした。

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