8/18(月) アボカドの刺身
昨日の夜買ったアボカドがいい具合に柔らかくなってきたので、今夜はこれを使うことにした。
今日買った何らかの魚の短冊と共に薄切りに、刺身にして醤油と共に食う。
「何これ?」
「アボカドだよ。昨日買ったろ」
「へえ、あの卵みたいなやつ」
丼にしても良かったかもしれない。いつになくおかずの減り方が遅い。特にアボカドへの食いつきが悪い。刺身とアボカドを交互に並べて一緒に食べようという趣向であるが、
吸血鬼はアボカドを気に入っていた。青臭い臭いとねっとりした食感。おまけに過度の栽培はなんか環境に悪いらしいところも気に入っていた。
「美味いか」
「……シャンジュは?」
狩人はアボカドを気に入っていないらしかった。吸血鬼が気に入ったところと同じところを、全く同じ理由で嫌っているのだろう。吸血鬼はあまり苦手がない狩人のことを珍し気ににやにや笑って返答を待った。
「美味しいと思うよ。また買おっかな」
「えっ」
「どうした? 理人」
できるだけ口を濁しながら、狩人は口を開く。
「僕の分は……そのときはいらないかな」
「あんまり好きじゃない?」
「うん」
食い気味に首肯して、狩人は俯いた。
対して吸血鬼はニコニコ笑っていた。数少ない苦手な食べ物を新たに発見したのが嬉しいらしい。
「好きなら君が全部食べなよ」
「そうだな。俺は好きだ。ほら、あ~ん」
「あ、あーん?」
刺身とアボカドを醤油に付け、吸血鬼は狩人の口元に運ぶ。醤油辛い口の中を薄めるように、ご飯を共に咀嚼する。
「急になんだよ」
「あ~ん」
狩人が口の中の物を呑み込んだ後、吸血鬼はもう一度、醤油を付けた刺身とアボカドを差し出す。狩人は仕方なしに受け入れる。子どもに苦手なものをこうして食べさせることはあるというけれど、実際にされたのは初めてかもしれない。
箸をもう少し喉の奥へと押し込めば、宿敵の脳幹を貫いて死に至るのだろうと妄想する。吸血鬼の顔は笑顔のまま、幸せそうな顔のままだ。
目分量で全体の半分ぐらいのアボカドと刺身が、狩人の口に放り込まれていく。
「なんだ、食べれたじゃないか」
もうこれ以上は君が与えたものを何も受け取らないぞとばかりに俯き、もごもごと口いっぱいのご飯を呑み込み終えて、狩人はむっとした顔で吸血鬼に向き直る。
「二度としないで」




