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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
七月・夏の生活
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7/7(月) 七夕(機織りの神様)

 七夕の夜、吸血鬼が用意したのは夏野菜がたっぷり入った素麺だった。野菜だけでは狩人が不満を漏らすだろうと考えて、鳥のささ身やカニカマも入っている。しかし吸血鬼が懸念するように、狩人は食事に対して文句を漏らすほどの自我は育っていない。

「七夕って、機織りや裁縫が上達するように祈ったのが始まりらしいな。飯のほうは――ちらし寿司なんか作ることもあるらしいが、やっぱ素麺が良いなと思ってさ」

「機織りしない現代人には縁遠いお祈りだね」

「だから色々と別の祈りもしていいようになったわけ。笹に五色の短冊を飾るやつは、商店街のほうでもやってたでしょ」

「そうだ、あの商店街の短冊なんだけど、あれ見てびっくりしたんだけどさ、人類の滅亡を祈ってる人がいたんだよね」

「機織りの神様じゃそんなこと祈られたらびっくりするだろうな。でも今どきの短冊は五色どころか折り紙切ったやつでべらぼうに色数あるしな。それだけ叶える色担当神様ズがいたら、そういう祈りを叶える神もあるだろ」

 早く食べないと麺伸びるぞ、と忠告する。素麺は細いから麵が伸びるのはうどんやラーメンよりも早いだろう、と吸血鬼は考えていた。お喋りは後でも出来る。

 味のほうは、おおむねうまく出来ていると思った。盛り方はだいたい市販の冷やし中華と同じだが、味はめんつゆが頼りだ。

「七夕って中国由来の行事だから、本当は旧暦でやるらしいよ」

「それ先に言ってくれる? ちなみにいつなの?」

 えーっと、と言って狩人はカレンダーをめくって見せる。旧暦、六曜、月の満ち欠け、どこぞの新聞社の広告が描かれた、日本では古典的ではあるがごく一般的なものだ。

「八月の二十九だって」

「めっちゃ先じゃねえか。覚えてないかもしれないしな、やらねえぞ」

 食事の用意をしただけで、笹やら短冊やらの用意はしていない。織女の祭りなんて現代のティーンエイジャーが二度もやるものじゃない、と織物も手芸もしない吸血鬼は思っていた。

 この地方都市の住宅街で笹を用意できるのはごく一部の限られた富裕層か、笹を持つ山近くに住む人々だけであろう。近所の雑木林には笹があり、商店街の笹もそこで用意したものと思われるが、近所で祭りをしているのならあやかっておいた方がいいだろう。吸血鬼には特にかける願いは無い。

「あ、後で笹団子用意してるから。俺が忘れてたらよろしくね」

「シャンジュは何か願い事した? 商店街でなんか買い物したら短冊を貰えるみたいだったけど」

「俺祈られる側だから。あんま祈らないんだ。理人くんは? 何か書いてきたんだ?」

「僕は――そもそも買い物する用事が無いから。君が願い事があるならって、興味があっただけ」

「ふーん。なんか神様にお祈りしたいことでもあったの?」

「無いよ」

「ふーん……」

 狩人の最後の一言は、吸血鬼にはあまりにも嘘くさく見えた。

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