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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
六月・ジューンブライド
32/104

6/21(土) 冷凍・惣菜・作りたて

「ねえ聞いてよォ~っ」

「なんスか」

 珍しく愚痴りたい気分らしい、この辺りではもはや珍しくなくなった吸血鬼が注文を先にしてカウンターに座る。客からのダル絡みには応じないようにという研修を受けていたアルバイトの克海は、新しく出来た友人だし大目に見てやろうという心意気で吸血鬼に返事をする。

「この前唐揚げを揚げたんだけどさ」

「大作業じゃないですか」

「おうもちろんよ。吸血鬼ってのは飯を食わせて血を貰うのが習慣らしいからな」

「肉を切らせて骨を断つみたいですね」

「やかましいわ。それでさ、普段は毎朝毎朝いちいち揚げてらんないからお弁当に入れるときは冷凍のやつ使ってるの。晩飯にちょっと食いたいときとか、お夜食にはスーパーのお惣菜とかもね。それでね、昨日の晩に聞いたんだよ」

 声色が変わる。これから言いたいことは一個のパターンだ。文脈から読み取れた。克海は辛抱強く黙って聞いていた。

「そしたらな、全部美味しいって言うんだ奴ぁな。差がわかってねえんだよあいつは」

 奴、とはもちろん吸血鬼が同居している白い恋人、いや白い狩人のことだろう。克海は別のある友人に送ったメッセージで、彼のことをあまり良く言っていなかった。そうしたら彼と会った友人は[あんな好青年捕まえて何がグリフィスだ]と返事をしてきた。克海はそれ以来己の誇張癖を治そうと心に決めた。そんなことは今どうでもいい。

「手抜きしましょうよそんな奴には」

「してるんだよ。その上で俺ァ手間を惜しまず作ったものを美味いと言ってもらいたいんだよ。どうやって」

 高度なイチャつきを見せられている。大学生活だけでは得られない、彼女にとって興味深いものだ。ありがたく享受する。

「マジで食事に関心がないんですね」

 どういう返事をしたらいいのかわからない。彼の言いたいことは終わった。解決策はない。褒めてほしいなら直接お褒めの言葉をねだった方がいい。

「そうなんだよ。あいつ。だいたい何食っても美味いって言うんだよ」

「作ったもの全部美味しかったんじゃないですか。料理上手だから」

「やだねぇ照れるぜ。まあそれもあるだろうけどさ。マジで美味かったらもう一回作ってって言うし、マジで不味かったら何も言わない」

「言ってんじゃないですか感想を。語彙力がないだけで」

「ひでえ物言いだな」

 ケラケラ笑っている。内心その通りだと思っているのだろう。

「いいじゃないスか幸せで。何もかも不味いより何もかも美味い方がいいでしょ」

「まぁ……そうだけど……」

「自分はどうなんですか? 相手が作ったやつと」

「まあ。わかるだろうよ。酷い出来のほうがあいつが作ったやつだ」

「なんてこと言うんだ」

「あいつ料理したこと無いんだと」

 遠い目をして言う。同居人の味覚感覚を作った全ての人間に文句を言いたい気分らしい。

「一緒にやったりはしないんですか? 料理」

「……最近はな、自分でソーセージとか焼くようになったよ。成長だな」

 話が逸れてきたところで冷めたコーヒーを飲み干す。二杯目はいい。誰が淹れたとてコーヒーはたっぷり飲みたいものではない。

「この分だと昼に炒飯を作ってくれるようになるかもな」

「へー。よかったですね」

「冷凍のだけど」

「そのうち冷凍じゃないやつも作ってくれるようになりますよ」

 吸血鬼はカランコロンとカウベルを鳴らして帰っていく。あれで灰にならないのだからシャンジュ様は他の吸血鬼とは一線を画しているのだ。遠くで眺めるだけではない面白さがあるのだから魅力的だ。猫とか生で見る方がテンションが上がるし。そういう効果があるのかもしれない。

 また暇になったので、克海は客席の本棚から文庫本を取って読んだ。吸血鬼が(ハイ)になるシーンがある漫画だった。

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