6/17(火) 服飾魔術理論に対するまったく専門家でない人の考察
「そういうわけでよ、服飾に関する魔術理論についてなんか、ない?」
「うち喫茶店だよ」
「知ってるよ」
吸血鬼は狩人を伴い、喫茶ソロモンに来ていた。
狩人の正装を好き勝手弄り回していたらいつの間にか夜になっていた。管理人を通して話をするにも、長くなりそうな話を立ってするのは嫌だった。朝一番に眠い目を擦りながら吸血鬼は狩人と共にモーニングを頼み、この朝の忙しい時間帯にお喋りまでしようとしていた。喫茶ソロモンの忙しいは、世間一般のいう忙しいには遠く及ばない。しかしながらあてにならない店長一人いなくなったところで変わりはしない、とも言いきれない。
「じゃ、僕先に行ってるから。会計しておくね」
「おう宜しく」
学校があるらしい狩人は先に店を出る。吸血鬼は店長を前に服飾暗示やら完全に合致した着衣による人体の魔術的強化がどうこうという話をする。
「あー……体系ごとそれぞれにはあるけど、服飾一本って言うと……科学の領域だな。全般に言えることとしては、目的によって使い分けがされてるってこと……当たり前だけど。服の使い分けによって日常と非日常、昼と夜、穢れと己を切り離してる。殆どの人間が科学にしていることに、魔術的な意味を見出そうとしたんじゃないかな、その先生は。ごめん説明下手で」
「いいってことよ」
「そうだ、おい赤彦くん、君んとこに何か、なんかあったろう、ちょっと話してくれる?」
「無いですよ。ありません」
「そんな無茶な」
「無いですって」
そろそろ学校の時間だからともう一人の常連客が清算をして帰る。店内には客とも言えない輩一人だけになった。ガチャガチャと店員が皿を洗う音が響いた。
「そういえば随分うちの店に来てくれてるようで。どうだい、二冊目は買うかい?」
「いんや。それほど来てないよ。そこのおにーさんに四分の一はカツアゲされちゃったしさァ」
「マジで?」
「カツアゲじゃないです。正体を探られたので、代償に貰ったんです。そういうもんでしょ」
「いやあそういうものだけどさぁ……」
「マジ? そんな探られたくないの?」
「君だって吸血鬼だってことを隠して付き合ってる子にバレたら嫌だろ? 彼は全人類にバレたくないんだよ」
「いやぁ……そういうもんかぁ……?」
彼は吸血鬼であることを言わなくても、隠したことはなかった。吸血鬼であることで不利益を被ったことは、彼の運命を除いて特に無かったからだ。
「そういう服があるんだ? 赤彦さんには?」
「無いって。ああでも、特撮とかアニメとかで、服ごと巨大化するシーンがあるじゃない。その場合は服と人体は一体として扱われているんじゃないの?」
誤魔化された。これ以上の話は期待できない。
「まァ何かわかったことがあったらまた教えてよ。お勘定よろしく」
「こういうことはパン屋に聞いた方がいいよ。もっとわかりやすく説明してくれるから」