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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
六月・ジューンブライド
29/104

6/15(日) カレイの煮つけ

 吸血鬼が狩人のところで同居を始めておよそ三か月。買物は毎日一緒には行かなくなったが、土日ぐらいは共にスーパーやら商店街やらに出掛けていた。

「今日のご飯何にする?」

 昼過ぎにあてもなくスーパーを物色中、妙に食欲をそそるカレイの煮つけに関するポップがあった。

「これにするか」

 吸血鬼は欲に従い、ポップに書かれたレシピを手早くメモに書き写した。

 家に帰りレシピ通りに作る。腹が減ったらしい同居人に味見をさせつつ。

「美味しい」

「そりゃ良かった」

 吸血鬼がこのアパートに来て三か月ほどが経った。料理もそれなりに上手くなったと、吸血鬼自身は考えている。変わらず飯の美味い不味いはわからないが、立派に見える食事のでっち上げ方を覚えたり、暇な夜に時間がかかる飯を作る習慣は付いた。

 レシピの分量通り手順通りに作っているのだから、レシピが間違っているのでない限り、下手に作れるはずがないのだ。

 吸血鬼は自分の味覚に自信が無い。今まで雑なものしか食ってきていなかったから、人間らしい暮らしをすると今までのツケが回って来る。見て見ぬふりをしてきたが年貢の納め時が来た。しかしながら未だ何とかなっている。レシピのおかげだった。

 同居人の味覚も怪しい。何作っても美味いとしか言わない。この同居を始めてから悪意あって突拍子もないものを作ったことはないと自覚しているものの、こう美味い美味いと言われては自分がつけあがるばかりだ。そういうわけで狩人の舌もあてにならない。もしかしたら本当に美味いのかもしれない。それならかなり嬉しいことだが。

 出来上がったカレイの煮つけを、炊いた米と共に美味いと思いながら食べる。火はきちんと中まで通っている。醤油やら生姜の味がした。

「美味い」

「よかった」

 なんでお前が笑うんだよ。吸血鬼は狩人に笑い返しておいた。ほうれんそうのおひたしを一口食べる。醤油と出汁の味がした。

 ……何もかも醤油の味がする。アサリの佃煮もそうだ。うわあ。気が付いた途端不安になってきた。吸血鬼は眉を顰めて狩人に聞く。

「お前……いいのか」

「何が?」

「味付けが醤油ばっかりで」

 狩人は少し考えこんだ後、ああ、と今気が付いたように言う。

「美味しいよ」

「そうか」

「醤油好きだから」

「そうか」

「味噌も好きだよ」

 いいらしい。狩人のほうは味の被りというものをまったく気にしていなかったようで、アサリの佃煮を一口分米に乗せて食べる。

「お前味付け濃いもんばっか好きなんだな」

「ご飯と一緒に食べたいから」

「そうかよ」

 塩分過多だ。上手いことこれで殺せたらいいんだけど。俺が自分の飯を作ることを当然だと思わせて。ただの不健康で。この神がかり的健康優良児を。

 無理だ。

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