6/12(木) 吸血鬼、本来の食事を取る
錬金術師に暇が出来たと聞いたので、吸血鬼は血を飲みに――いや住処に遊びに行った。前に彼の血を味わってから一月程度は開けたが、倒れられでもしたら困る。美味しいからつい吸い過ぎてしまうから、自制しないと。それくらいの気遣いはするつもりだった。
そして会えば誘惑に負けて血を吸いたくなる。我ながら自制心の利かない奴だ、と吸血鬼は考え、首筋に齧り付く。
食事中のすることと言えば、もっぱら吸血鬼が主導の世間話である。
「そういやあいつに何の仕事させてるの?」
「主にうちで力仕事だ。魔除け代わりの散歩、あとはそれと滅多に入らないが吸血鬼退治」
「近代文明じゃあクルースニクのお仕事は必要ないってわけだな。悪魔が微笑む時代だぜ。どっからそんな仕事引っ張ってくるわけ?」
「私は彼のマネージメントをしている。彼を買った責務だし、私のところに彼がいるのを知っている者は多い。奴を使いたいという者は私に話を持ち掛けるよう、話を流した」
「買った? お買い上げ? 闇市で?」
「そうだ」
ぢゅる、と音を立てて血を啜ると、錬金術師は艶っぽい呻き声を上げる。
「あんた可愛い顔してやるんだな」
「お前はそう言うが、私はそんなに可愛い顔をしているのか?」
「……もちろん! 俺好みの赤毛だし」
「初めて言われたな。お世辞か?」
「好みなんてお世辞で言うかよ。可愛いから自信持っていいぜ、あんた。ナウでヤングな吸血鬼様が保証する」
わざとらしく古めかしい言い回しに笑いを漏らした錬金術師は、吸血鬼のべたついた頭を撫でて言う。
「私の年の半分にも満たない餓鬼が。正気ではないのだな」
「まあね俺、吸血鬼だし」
吸血鬼は以前食欲のままに啜ったときの半分程度で傷を舐め、これ以上吸うのは止めておいた。
「もう、いいのか?」
「あんたあの後調子悪くなっただろ? だからやめとく。末永く吸わせていただきたいし」
「……そうか」
ほっと息をつき、錬金術師は裾を直す。
「あんたの方はどうだ? その……体調は?」
「十全だ。心配するな」
「先月みたいになってる? ってことを聞きたかったんだけど……」
「……ああ。それなら。今日はちゃんとティッシュを置いてある」




