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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
五月・足長おじさんと
23/104

5/21(水) からし、あるいはマスタード

 吸血鬼が来てから、狩人の調理法が格段に増えた。

 かつては電子レンジと炊飯器しか使っていなかったが、火を得ることで切る・焼く・煮る・念入りに焼くなど、数倍に増えた。人間の進化の歴史としては手順が逆であろうが、便利なものが増えた現代日本においてはそのような事例がままあった。

「ソーセージ買おう。そろそろ無いから」

「わかってる。もう書いた」

 買い物前のメモにも口を出すようになった。しかし狩人の食糧事情把握の程度は、吸血鬼を超えることはなかった。

 ところで三〇六号室の台所でで焼かれたソーセージには、専らケチャップかマヨネーズか、それら二つを混ぜたオーロラソースが付けられていた。

 そして出掛けた先での出来事。ソーセージの隣に置いてある瓶の粒マスタードに目が留まる。

「粒マスタードってからしの粒あんだよな」

「そうかな」

「練りからしはこしあんだ」

 生返事だった。狩人には関心がなかった。彼にしてみれば、からしもワサビも“なんか辛い”という認識で、色以上の大きな違いはなかった。食に対してとことん雑な人間だった。

 冷蔵庫にチューブの練りからしが無い。使い切ったから無いのではなく、そもそも三〇六号室冷蔵庫の中に常備せず、存在していないのだ。寿司と共に付いてきた、冷蔵庫に滞在している期間は二年以下の練りワサビの袋はあった。

 粒マスタードの汎用性を考えると、練りからしを買った方がいいか。吸血鬼は粒マスタードの瓶の前を通り過ぎた後、買い物かごに練りからしのチューブを放り込んだ。

「おい理人。からしも粒マスタードも元は同じだ。違いはない。そうだな」

「なんだよ急に」

「いいか。これはマスタードだ。復唱しろ。これはマスタードだ。粒がないだけで」

「これはマスタード……」

 吸血鬼の命がかかっていないときにしか出ない気迫に圧されて、狩人はそうだと頷いた。狩人は吸血鬼がこうだと言い聞かせているから気圧されているのであって、冷静になって考えてみれば、粒マスタードと練りからしの違いも知ったことではないだろう。

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