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吸血鬼狩人、宿敵と同居する  作者: せいいち
日付不明 三年目以降
101/104

狩人のその後:ホウレンソウ

 三月も末。狩人はミカジロの仕事を終えた。山奥の広い屋敷に一人暮らしでもなんとか暮らしていけてしまっていた。むしろ吸血鬼がいない方がいろいろと仕事が捗っているきらいがあった。生活を放棄してしまえば一週間も経たずに仕事は終わり、仕事が終わってしまえば虚しさが残った。

 吸血鬼は何かと予定にない行動を起こした。起きる時間も寝る時間も予測がつかないし、じゃれかかってくるときもあれば、後ろ足で泥を引っかけることもある。食事を一緒にとるかどうかもわからないけどご飯を作り置きしてくれる時もあれば、眠っていないのに布団に入り込んでは戯れに蹴飛ばしてくることもある。とにかく彼は可愛らしかった。

 今が楽しいわけはない。一人、ただ暮らしているだけだ。充実もしていない。ただ決まった仕事を、消化器官に落とした食物のように熟すだけだ。決まった時間に決まった食事をとり、決まった時間に風呂に入り、眠り、決まった時間にこの屋敷に眠る数多くの呪いを解く。

 最後の一つ、最も重要な一つには終わりがあった。今日の日の出にその仕事も終わった。

 仕事の終了を告げ、依頼したミカジロの返事はこうだ。

『へえ、やっとか。だいぶかかったなぁ。それで、どうするつもりだ、これから。そのまま住み続けるなら住み続けてもらったほうが都合がいいんだが……』

「義兄のところに行きます。引っ越しの予定はまた……」

『連絡すればあっちから来てくれそうなものだけどな。したのか? 連絡は』

「まだです」

『それなら先にちゃんと話をした方がいい。おれよりもそちらの方が縁が近いだろうに。後の身の振り方はそれから考えてもいいんじゃないか?』

「そうですね」

『ところで吸血鬼は今どうしてる? 元気でやってるか?』

「……逃げられました。場所はわかっています」

『おーわ。そう』

「これから探します。迷惑はかけないかと」

『そうか。元気でやれよ。じゃあな』

 ミカジロへの連絡をあっさり終えて、次。狩人は義兄に報告をする。ミカジロに伝えたことと同様に、吸血鬼の行方を付け加えて。

 一度かけ直しを検討された後であるため、この会話のとき日付は変わっている。

『マジ?』

「はい」

『……お前はどうするつもりなんだ? まさかお前まで冥府に行くとか言わないよな? 頼むからやめてくれよ』

「然るべき時には」

『それは、ああ、そりゃ生きとし生けるもの全てがそうだろうけどさ。違うんだ。……お前はあの吸血鬼を追いかけて、父さんみたいにならないよな?』

「わかりません。でも、ちゃんと帰ります」

『この世はわかんないことだらけだ。どうすんの? リヒト。お前はこれからどうする? このままあの家にいるのか? それとも……』

「いえ。別で仕事を見つけたいので。出来れば義兄さんの所属している何……なんて言いましたっけ」

『いいよ正式名称は。長いし。うん。僕もそれがいいと思ってた。実働部隊が増えるのはありがたいと思うけど、向こうは何て言うか……面倒だから。話つけてみるわ。期待しないで待っといて』

「はい。そちらの情報網もあてにしてます」

『あてにすんなよ。こっちだってお前の宿敵を捕まえられなかったんだぞ』

「困りますよ。僕が捕まえられなかったのに」

 それからはあまり益の無い会話が続いたので省く。無為な会話が出来るほど義兄との仲もましになった。一時の狩人は義兄を死にたくなる程憎んでいたが、人生どう転ぶかわからないものだ。

 必要な連絡は済ませた。あとは成人した今、錬金術師の庇護はもう必要無い。義理を通すほどの道義は、少しだけ、あるかもしれない。

 狩人は少し悩んだ後、錬金術師に電話を掛けた。大した会話はしなかった。

 数日後、再度義兄からの連絡が来た。話によるとどうやら狩人は晴れて義兄の所属する機関に招かれることになったらしい。そこで雇ってくれるかどうかはまた別問題らしいが、所謂お試し期間だという。

「賃金出ますよね」

『出る。安いけど。あ、いや、普通のアルバイトよりはいい値段だ。最低賃金じゃあない』

 ともかく狩人は義兄が本拠に海を越えて向かうことになった。

『飛行機のチケットの買い方わかる?』

「調べます」

『ようし、いい子だ。空港で集合だな、後いろいろ決まったらまた連絡くれ』

「はい」

 ひとまずこの家は長く開けることになることになる。狩人に必要な荷物は新しく買ったトランク一つに収まった。山奥の家には多くの家具を残していくことになったが、戸締まりをしていけばいいし、狩人がここに住むようになる前と同じに、ひと月に一度はミカジロが様子を見に来る。問題はない、たぶん。

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