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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第3部───第二章:貴女、いったい、そんな偏平な身体つきで、どうやって私のオーランド様に取り入ったの……!よほど何か、とんでもない色仕掛けを使ったのね?
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(1)

「キーリエっ、どこに行くの?今日は非番でしょ?」

「お、おはようございます……」

 月に数回の非番の日。一人で朝食を採っていたキリエが、食堂を出ようとしたところで、副隊長と鉢合わせた。

 軍服姿も似合っているけど、普段着は完全に王子様だ……。

 仕立てのいい貴族風のクラバットの付いたシャツにベストとジャケットを身に付けた姿は、目の保養以外の何物でもなかった。

「副隊長こそ、こんなところで何を……?ラマン家のお屋敷に、帰らなくていいんですか?」

「あんな陰気なところに帰るわけがないでしょ。せっかくのお休みなのに……。二言目には、僕に充てがう侯爵令嬢の話しかしないんだから、あの人達は……」

「結婚、しないんですか?貴方なら社交界の令嬢達から引く手あまたでしょうに……」

 オーランドの好みがクアナみたいな清楚系の美女だと言うのは周知の事実である。たくさんの令嬢たちの中から選り取り見取りで選べる立場だろうに、彼はいつまでもふらふらと独り身だった。

「あのねぇ、僕は、貴族と結婚するつもりはないの。貴族の立場が嫌だから、術士なったって言うのに……」

「貴族がイヤ……?」

 そんな人、初めて出会った。

「なんとも、贅沢な悩みですね……」

 成り上がりたいと思っている平民術士にでも聞かれたら、袋叩きにされることだろう。術士は貴族にはなれないが、軍を引退した後ならば爵位を持つことだって、理論上は可能なのだから。

「そんな話をするために君を待ってたんじゃないんだよ。キリエ、一緒に出掛けない……?ハイドパークに、ランチタイムは美味しい屋台が出るんだって……平日の今日なら、絶対すいてるよ……!」

「ええ……っ?貴方と、私とで、ですか?」

 キリエは突然のことに、びっくりしていた。

「そうそう、デートだよ、デート!楽しそうでしょう……?」

 キリエは、全力で首を横に振った。

「無理無理……。貴方と二人きりなんて、到底釣り合いません。貴方と二人で歩いてるとこなんか、リッカあたりに見付かったりでもしたら、それこそ目の敵にされてしまう……っ!絶対に、嫌です!」

 アークライト・リッカが『オーランド様命』なのは、誰の目にも明らかな話だった。彼女の強力な焔術で、消し炭にされるのはご免だ。

「大丈夫大丈夫、彼女は僕には逆らえないんだから、いじめられそうになったら、僕が守ってあげる」

「どの口が言うんですか!?こないだ、あんだけ私のことを(けな)したくせに……!」

「ごめんごめん、あの時は、キリエの反応があまりに可愛らしかったからついつい……」

 オーランドは思い出し笑いをするようにくすくす笑いながら言った。

「そうやっていつも貴方は、私のことを馬鹿にして……っ!」

「行くの?行かないの?どうせ一人でヒマしてるんでしょ?引きこもってばかりいないで出掛けようよ!ハイドパークにはウサギとかリスとか、かわいい小動物もいっぱいいるよ、いつも殺伐(さつばつ)と魔物の相手ばっかりしてるんだから、たまにはのんびり癒されようよー」

 かわいい小動物……キリエもこれには思わずくすりと笑ってしまった。必要とあらば冷酷に人を斬り殺すこともできる、帝国最強の風術士のくせに、子どもみたいに無邪気なところがあるんだから、この人は。

「はあ……分かりました。それなら、コール隊長とクアナ姫を捕まえてくると言うのはどうですか。周りの目があるので、二人きりで出歩くのは気が引けますが、あの二人が一緒なら、少しは中和されることでしょう。さっき、仲睦まじく歩いている姿を見掛けたんです。急げば、まだその辺にいるかもしれません」

「いいね、それ。妙案じゃん」


 果たしてコールとクアナのカップルは、食堂のど真ん中で、二人並んで仲良く朝食を採っていた。

 エンティナス・コールの特性『一目を(はばか)らない』は、今日も健在だった。最凶の闇術士と絶世の美姫クアナのカップルは、どう考えても帝国軍中の注目の的だと思うのだが、コールには恥じらうということが全くなく、いつも、さも当然と言うように堂々としたものだった。

 クアナもまんざらではないみたいで、コールの隣で、幸せそのものと言う顔をしている。

「おはようございます、隊長、クアナ姫。今日は非番でしょう?みんなで、ハイドパークに出掛けませんか?」

「ハイドパーク……?」

 クアナは何のことか分からずにきょとんとしている。

「国立公園さ……!ピクニックだよ、キリエの気が変わらないうちに……さっさと出掛けるよ……!」

 二人の都合も全く気にしない、マイペースなオーランドだった。


 ハイドパークは、帝都の中心部に位置する巨大な都市型公園だった。公園の内部には泉もあり、泉から流れ出る小川が園内を東西に分けている。

 帝立博物館、美術館、温室を併設した植物園なども軒を連ね、帝都に住む人々の、憩いの場だった。

 コールとクアナが前を歩き、その後ろにオーランドとキリエが続く。四人はさくさくと、庭園内の柔らかな土を踏んで歩いた。

「キリエ、私服も可愛いね!白いブラウスに紺のスカート……細い身体によく似合ってる」

「止めてください、恥ずかしい……」

 そう言うクアナは、清楚な白いワンピースを着ている。お揃いの真っ白な日傘を肩に掛けて歩く姿は、信じられないぐらいの美少女っぷりを呈している。

 園内を歩く人々が、思わず振り返って二度見しているほどだ。そりゃ二度見もするよね……この人達、顔面偏差値がおかしいもの。キリエはたった一人、肩身が狭い思いだった。

「キリエ……!た、大変だ!あれは、『カヌレ』というものじゃないか……っ?」

 クアナが突然、キリエに飛び付いて声を挙げた。

「一度食べてみたかったんだ……!リオンにはないお菓子だ!」

「遠慮はいらないですよ、ぜひ食べましょう!」

 二人はいそいそと露店に並び、色とりどりの装飾のされた焼き菓子を選んでいた。

「女の子って、ほんと、ああ言うのに弱いよね。コールは、食べなくていいの?」

「俺は甘いものは苦手だ」

「気が合うね、僕もだよ」

 コールとオーランドは一歩引いて、盛り上がる女子二人を眺めていた。


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