表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第二章:ランサー帝国でも指折りの名家エンティナス家の長男という、誰もが羨むような華々しい出自にありながら、エンティナス・コールの幼少期は悲惨なものだった
8/165

(1)

思いたって一章と二章を入れ換えてみました


途中まで読まれていた方いらっしゃったら、混乱させて申し訳ございません!


 ランサー帝国でも指折りの名家エンティナス家の長男という、誰もが(うらや)むような華々(はなばな)しい出自にありながら、エンティナス・コールの幼少期は悲惨なものだった。

「くそっ……!何かとあればすぐに熱を出すし、このような細く弱々しい腕で、……剣もろくに振るえんとは…とても私の息子とは思えん……!」

 父親であるエンティナス家当主エンティナス公ジークムンドは、コールの顔を見るたびに激しく毒づいた。

 それはたとえ、高熱に苦しむ息子の目の前であっても変わらなかった。

「こんな奴が嫡男(ちゃくなん)とは……いっそ、くたばってしまえばよいものを……!」

「旦那様、あんまりです。坊っちゃんは熱があるんですよ」

「黙れ……っ、さもなくば貴様も打つぞ」

 熱に浮かされながら、苛立(いらだ)つ父親の声を聞くたび、いっそ殺してくれればいいのに、といつも思っていた。

 コールがもし、見た目通りの気弱な人間として生まれたならば、本当にそのまま、病んで死んでしまっていたかもしれない。

 コールの内面はしかし、青白く今にも倒れそうな見た目とは裏腹に、苛烈(かれつ)そのものだった。

 コールは父親の苛立ち以上に、自分自身に対していつも激しい苛立ちを抱えていた。

 生まれた時から病弱で、武家の嫡男として、剣の腕を磨きたくても、それができなかった。

 二歳年下の弟は、父から手解きを受け、めきめきと剣の腕を上げているというのに。

 それを見るにつれ、ますますコールは苛立った。

 なぜ、当たり前のことが自分にはできないのか。なぜ、よりによって自分が、このような呪われた身体を持って生まれてしまったのか。

「くそっ……くそっ……」

 城内外の家臣たち、騎士達が、「まさかあのジークムンド閣下の息子が、こんな貧弱な子どもとは……」「あれが嫡男ではな……」と嘲笑(あざわら)っているのには気が付いていた。

 弟のノエルだって、表面上は兄を(うやま)っているように見えるが、本心ではどう思っているか分からない。

「兄上、幼少期に身体が弱くても、大きくなるにつれ、強くなる方もいるそうですよ。庭師のローランがそうだって、言ってました。あんな身体の大きい大男が、子どものころはしょっちゅう熱を出していたって……」

「だが、俺はエンティナス家の長子だぞ!俺は強くならなくちゃいけないのに……!子ども時代にどれだけ身体を鍛えたかが、後の身体能力に繋がることぐらい、俺でも知っている」

 そう言って、どうにもならないことを当たり散らしては、弟たちを困らせていた。

 その頃のコールには、家督を継ぐ権利を、弟に渡すなどという考えは一切頭に無かった。

 とにかく、病いがちな身体を治して、身体を(きた)え、エンティナス家の嫡男として、ふさわしい姿を周りに見せたいと、そればかりを考えていた。


 ところが、そんなコールの鬱屈(うっくつ)とした日々を、一転させる出来事が起こる。

 それは、珍しく身体の調子がよく、コールが弟のノエルと、友人のギラン・ロクシスとともに、領地内の森の中を散策していた時だった。

「ギラン、お前は次の秋から、帝都の術士養成学院に行くんだろう?」

「ああ。俺の家は代々術士だからな。父親も軍にいるし」

 術士の家系の者や、そうでなくても、術の素質のある者は、みな十歳前後で帝都にある術士養成学院へ行く。

「お前はいいよな。術の才能にも恵まれてるし」

「なに言ってる、なんで領主サマの息子が、俺なんかを羨ましがる必要があるんだよ」

 ギランは弱気な言葉を吐くコールを励ますように言った。小さな頃から一緒のギランは、領主の息子であるコールにも遠慮がない。

「俺には『それ』以外なんにもない。空っぽだ。ままならない身体があるだけ」

 コールは自嘲気味にそう言った。

「兄さま、そろそろ戻りましょう。だいぶ町から外れてしまいました。もうすぐ日も暮れるし、日が暮れて涼しくなったら、お身体に(さわ)ります」

 弟の気遣いの言葉にも、コールは苛立った。

「お身体に触る、か。夜風にすら負ける身体とはな……」

 その時だった。

「なんだ……?」

 ギランが周囲の異変に気付き、呟いた。

「まだ、日暮れには早いだろ、急に、暗くなったぞ」

 ギランの言う通り、まるで、周囲の景色が(ゆが)むように、辺りが暗くなった。

「これは、魔物の気配……?」

 暗闇の中からコウモリの形をした魔物が無数に現れた。

「ブラッドハンターだ……!」

 魔物の知識のあるギランが目を見開いて言った。

「普通のコウモリとは違うのか?」

「魔物だ。人を(おそ)うぞっ!」

「とにかく、逃げましょう!僕たちに(かな)う相手じゃありません、町まで逃げれば大人達が居ます!」

 三人は色めき立って走り出した。

 しかし、空を飛ぶコウモリに、人間の足で逃げられるはずがなく、三人の子どもたちの身体に、コウモリたちは容赦なく群がり、()みついてきた。

 三人は手足を振り回し、必死でコウモリを追い払おうとするが、飢えたコウモリたちは、格好の獲物を前に、まったく(ひる)む気配がない。

「このままじゃ、殺される……!」

 ギランが右手を差し出し、呪文を詠唱した。

「〝焼撃(しょうげき)〟!」

 暗闇を明るく照らす炎が、ギランの右手から吹き出す。

 コウモリは炎に焼かれて消えて行くが、消えたそばから新たなコウモリが現れ、切りがない。

「くそっ、焰術じゃ、闇の魔物を完全に消し去ることは出来ないんだ……。どこかにあるはずの、封印の(ほころ)びを直さないと……」

 コールも後から知ったことだが、術には相性がある。闇の魔物の弱点は聖術。魔物を封印することのできる唯一の術は、聖術だった。

 コールはコウモリに噛まれる度に鋭い痛みが全身を走り、徐々に力が抜けていくのを感じた。

 コールはたまらず、その場に倒れた伏した。

 倒れたコールの身体中に、コウモリたちが真っ黒に群がっていた。

 闇の魔物に()まれても、物理的に身体を損傷(そんしょう)することはない。だが、生気を吸いとられ、すべての生気を失えば、人は死ぬ。

 ……このまま、何も出来ずに死ぬのか?俺の人生は、空っぽで、何もないまま、終わって行くのか?

 俺が死んだら、健常な弟たちの誰かが俺の代わりに家督を継ぐのだろう。ただ、それだけだ。それでも構わないのではないか……?

 コールは頭ではそう自問しながらも、一方で身体の奥底から、何か抑えられない力がふつふつと込み上げてくるのを感じた。

 身体の中を、何か未知の力が荒ぶっている。

「俺を……食い付くそうとは良い度胸だ。……消えろ……!」

 騎士の家で生まれ育ったコールに、術の知識などあるはずがなく、それは、本当に、死の瀬戸際で、自分の力で見出だした方法だった。

「消えろ……闇の中へ、帰れ……っ!」

 気付けばコールは立ち上がっていた。

 コールの身体に群がっていたコウモリたちは、恐れをなしたように次々と、辺りの闇の中へと逃げ去るように消えていく。

 その姿を驚いて見ていたのはギランだった。

術士の血を引くギランの目には、黒く禍々(まがまが)しい力が、コールの全身から(ほとばし)っているのがはっきりと見えた。

「なんて、禍々しい呪力だ……。漆黒の呪力……初めて見る……」

 ギランとコールの弟の身体に群がっていたコウモリたちも、いつの間にかすべてが消え去っていた。

「魔物を封印できるのは、聖術だけだと思っていたのに……」

 ギランが呻くように言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 文章量が長すぎない。 比較的読みにくくない。 [気になる点] 文章のリズムが一定で、メリハリがあまりない。 [一言] 主役の魔術師が活躍するまでだいぶかかりそうな作品ですな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ