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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第2部───第四章:平和を獲得するための闘い
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(7)

「フッ……終わりはあなたですよ、おにいさん」

 少年は笑っていた。コールは、目を見開く。


「〝洗脳〟」


 クアナは、初めて聞く術名(スペル)に、戦慄を覚えた。洗脳……?

「闇術士の真骨頂が何か、知らないわけではないしょう?……『使役』の力ですよ。黒い呪力を持つ者であれば、生きとし生けるもの、なんだって使役できるのに、あなたは、そんなことにも気が付いていない。僕のワイバーンは、生身の、生きたドラゴンですよ。『深淵からの召喚』などでは、ない!」

 たった一人追い詰められた少年が、懐に隠し持っていた刃を、抜き放ったかのようだった。





「……いったい何が、どうなってる……?」


 駆け付けたオーランドが叫ぶように言う。

「見ての通りだ。コールが、『洗脳』されている……」

 ケンが、呆然と呟いた。

 巨大なドラゴンが翼を広げ、クアナに襲いかかっていた。

 聖なる召喚獣――一角獣がそれに応戦している。

 邪悪なる闇のブレスを、一角獣の清浄な光が受け止めていた。

 最強対最強の戦い。その力は互角。

「あり得ない……」

 オーランドは、あまりのことに、絶句した。

 このままでは、コールが、クアナを殺してしまう……!

「クアナ……っ!もういい、投降しろ!決闘は終わりだ……!」

 ケンが叫んだ。

 少年の瞳は暗い光を放つ。

「イヤだね。投降など、許さない……!」

 クアナは、そのやり取りに、はっとして、離れた場所の仲間達を見やった。

 オーランドと目が合う。

 師匠……。

 冷静に、ならなければ。試合が、延長されただけのことだ。この人(コール)となら、自分は何回も闘ってきたじゃないか。

 クアナが生まれてはじめて術士と闘ったのも、この人とだった。それが悔しくて、この人に勝ちたい、認めてもらいたいと思って、ひたすら努力してきたのもこの人のためだった。

 思えばクアナは、愛するこの人といつもいつも闘ってばかりだ……。

 クアナは、漆黒の呪力を撒き散らしている、目の前の、帝国最強の闇術士を見ながら思考を巡らせた。

 この人は、呪力お化けだ。

 召喚術は、召喚中、その大きさに応じた呪力(コスト)を継続的に消費し続ける。このまま召喚獣同士の闘いを続け、それが長引けば、クアナにまず勝ち目はない。

 師匠、どうしたらいい……?


 その時、クアナは閃くように一つの事実に思い当たった。

 『洗脳』……?と、言うからには、精神攻撃の一種なのだろうか。


「〝解呪〟」

 クアナは、祈るような気持ちで、使い慣れた術名(スペル)を呟いた。

 ドラゴンの猛攻が止まる。

「止まった……」

 オーランド、エリンワルド……本当に、ありがとうごさまいます……!

 クアナは、二人の偉大なる師に、心から感謝した。

 しかし、次の瞬間、クアナは、別の意味で、深い絶望に落とされることとなる。

 このやり方は、良くなかったかもしれない。

「やってくれたな、小僧……他の誰は赦せても、貴様だけは、確実に、生命を奪っておく必要があるようだ……」

 コールは、完全にブチキレていた。

 言うまでもない。親子ほど年の離れた小賢しい闇術士に操られ、危うく自らの手で、大切な人を傷つけるところだったのだから。

 子どもの遊戯(ゲーム)ではないことを、思い知らせてやる必要がある。

 弱冠十二歳の少年は、敵対する闇術士の本気の怒りに触れ、さすがに恐れおののいていた。

 もう、取る手が、ない。

 今度こそ、エリスは追い詰められていた。

 最強の聖術士でありながら、水術の造詣も深いクアナに、精神攻撃は効かないことが分かってしまった。エリスの最大のクリーチャーである、ワイバーンも手傷を負っている。黒龍と一角獣を前に、なす術はない。

 漆黒のドラゴンが、エリスに迫る。

「やめて……っ!それだけは、ダメだ……!」

 悲鳴をあげ、エリスをかばうように立ち塞がったのは、聖術士クアナ・リオンだった。彼女は、コールの胸に飛び込み、その身体を抱き締めるようにして、彼の怒りを鎮めようとした。

「相手はまだ、子どもなんだよ……っ!」

 クアナは必死だった。

 コールの気持ちは分かるが、相手は怯える子どもだ。この人に、そんなことは、絶対にさせたくない。

 しかし、コールの怒りは収まらない。

「子どもだからこそだ。こんなヤツを野放しにしておけば、将来、ランサーにとって、どんな脅威になるか分からないだろう……!」

 こうなったら、誰にも、隊長を止めることはできない……コカトリス第三小隊の全員が、『万事休す』、そう、思った時だった。


「頭を冷やしたまえ、コール」


 天からの啓示のように、コールの耳に、聞き慣れた声が響いた。


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