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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第2部───第四章:平和を獲得するための闘い
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(3)

 かくして、ランサー帝国最強の闇術士エンティナス・コールと、その同盟国リオンの王族にして、最強の聖術士クアナ・リオンは、長いランサー帝国の歴史上、初めてとなる、領地獲得戦のための、『術士による決闘』に臨むこととなった。

 これが功を奏した暁には、今後の領地戦の、新たなやり方を築く可能性もある。

「クアナ、基本的には、俺がお前に指示を出す。ここに『最強の軍師』が居てくれないのは、正直心細いがな」

 コールはもはや、副隊長の不在への不安を隠すもことなく、苦笑してそう言った。前回同様、相手はこちらの手札をすべて知っているにも関わらず、こちらは相手の呪力の色が何色なのか、見極めるところからの勝負。なかなか骨の折れる闘いになりそうだ。

「情ないですよ、隊長……!始まる前から、そんな、弱気な発言をしてんじゃないですよ」

 ケンがわざと生意気な口を利いて、コールに発破を掛ける。

「いざと言う時は、僕達が、間に入ってお二人を守りします。正々堂々の『決闘』と言うからには、向こうもわざわざお二人の命まで取る必要はないはずですからね!」

 フリンも、二人を励ますように言った。

「それじゃ、行くか、クアナ」

「……はい」

 クアナも覚悟を決めていた。勝利か敗北か……いずれに転んだとしても、ランサーとニーベルンの戦争に終止符を打つこととなる闘い。クアナの愛するランサーが、平和を獲得するための闘いだ。腕が鳴るじゃないか。


 ランサー城に隣接する広い平原で、コール達と、ニーベルンの術士は対峙した。

 立会人は、ニーベルンの使者と、エンティナス公、そして、ケンとフリン、二人の術士だけだった。危険なので、非術士の人間をこれ以上立ち会わせるわけにもいかない。

 ところが、二人を待っていた術士を見て、コールは目を疑った。

「子ども……?」

 二人の術士のうち、一人は明らかに子どもだった。

真っ黒なローブに身を包み、黒髪は綺麗に短く整えられていて、その下に隠れる瞳も同じく漆黒。あどけない、子どもの表情だった。年の頃は十二、三歳ぐらいであろうか。ランサー人であれば、術士の養成学校に通っているぐらいの年頃だ。

「ニーベルン大公は、いったい何を考えてる……?こんな、年端もいかない子どもを寄越すとは……」

 コールは正直焦っていた。自分はともかく、クアナの性格を考えれば、子ども相手に本気で術を使うことなど、果たして出来るだろうか。

 どこまで狡猾なんだ、ベアトリスとやらは。

「隊長、安心してくれ。私だって、ランサー帝国の術士だ。私のやるべきことが何であるかは、分かっているつもりだ」

 コールの心の内を読むかのように、クアナが言う。

「この闘いを制すれば、ランサーはこれ以上、人を殺めずに済む。そのためならば私は、どんな相手とだって、闘ってみせるよ」

 一条の光が差すように、クアナの言葉は、コールの琴線に触れた。

 潔癖なクアナは、先日の一件にいたく心を痛めていた。その言葉は、コールにこれ以上、人を殺めて欲しくないと、そう言っているようだった。

 自分はどうやら、この娘を甘く見すぎていたようだ。クアナは、この一年で、驚くほど成長している。

 

 ニーベルンの使者の合図で、決闘の始まりが告げられた。

 コールは手始めに、手頃な魔物を召喚する。

「〝深淵からの召喚〟」

 インプの群れが、相手を襲う。

「〝焼夷〟」

 やはり、一人は焔術士か……。

 インプの群は、あっさりと焼き尽くされる。

 前回と同じだ。召喚術と、焔術は相性が悪い。

 だが、今回は違う。

 まずは、焔術士からだ。

 召喚したのは、インプの群、だけ、と見せかけて、コールは闇のスプリットを幾らか召喚していた。

 姿を隠して移動していた死神の鎌を持った死霊が、焔術士を背後から襲う。

「思い出すね、私もそれ、やられたんだった」

 クアナは、右肩に受けた魂を削られるような一撃を思い出して、ゾッとしながら見ていた。

 焔術士は、死霊の渾身の一撃を食らい、呻き声を挙げて倒れる。死霊は一体だけではない。複数の死霊が、次々と姿を現しては、焔術士に攻撃を与えようとする。

 その時だった。

「〝スプリットの召喚〟」

 コールとクアナは、衝撃的な一言を耳にした。

 召喚術の術名(スペル)……!?

 少年の小さな身体からは、闇色の呪力が、吹き出していた。まるで、わざとコールと同様の術を返すかのように、コールの使役する死霊とそっくりなクリーチャー達が、闇の中から立ち現れた。死霊同士が闘い始め、それぞれが、それぞれの呪力を打ち消しあって、霧散していく。

「驚いたか、エンティナス・コール。『闇術士』は、お前だけではないぞ」

 焔術士は立ち上がると、不敵な顔で言い放った。

 コールは、衝撃を受けると同時に、思考を巡らせていた。

 ついに、闇術士と闘う時がきたか……。コールも、いつかその日がくるかもしれない、そう想定して、その時が来た場合の戦術についても、ある程度は頭に入れていた。

「クアナ、お前もこのぐらいのことでは、慌てないだろう?なんせ、対闇術士攻略なら、日頃からあのクソ生意気な軍師と顔を付き合わせて研究してるもんな」

 クアナはコールと顔を見合わせると頷いた。

「もちろんです」

 ただ、オーランドとともに考案した絶対防御【黒】は使えない。あれを使えば、コールも召喚術を封じられてしまう。もし、使うとしても、タイミングが必要だ。


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