(2)
……とは言え、果たしてオーランドでも、鋼の剣でキリエの術に勝てるのか?
メンバー達は全員、興味津々だった。前回の現場では、キリエは一人で闘っていたので、誰も彼女の実力を知らない。
いったい、どんな闘いになるのだろうか。
キリエとオーランドは、距離を取って対峙する。
オーランドは、力の抜けた姿勢で、鋼の剣を正眼に構えた。その姿は、術士ではなく、本当の剣士のようだ。
一方キリエは、呪力で刃を作り出す。呪力の輝度で風術の刃の強さが分かると言われているが、キリエの刃はブレのない白銀の光を放っていた。
「悪くないね……」
オーランドは微笑んだまま呟く。
「いつまでそんな、余裕の表情をしていられるかしら……?」
キリエは思い切り右側面から切り付けた。
真正面から呪力の刃を受ければ、鋼の剣など一溜りもないことを知っているオーランドは、軽くいなすようにその刃を弾く。
返す刃に思い切り力を込めて、オーランドの胸元に鋭い一閃を放つが、オーランドは軽々と後退してそれを避ける。突っ込み過ぎたキリエは、隙を付いた反撃に襲われそうになるが、キリエもきちんとそれに合わせ、刃を受け止めている。
「なかなかやるじゃないか、僕についてくるなんて……」
二人を見守るメンバー達も、目を目張っていた。オーランドの剣技の凄さは誰もが知るところだ。彼は騎士と手合わせしても負けないぐらいに身体能力を鍛えている。
キリエは憎たらしいほど軽々とキリエの刃を受け流すオーランドの剣捌きを見ながら、どこかに隙はないか必死で伺っていた。
「でも、そろそろ、体力的にキツくなってくるんじゃない?あんまり長引かせない方が、身のためだよ」
オーランドは剣を振るいながらキリエに言う。
その通りだった。呪力を使用していないオーランドに対し、キリエは呪力を消費しながら闘っている。そしてそもそも、呪力以前にフィジカル的な体力も、女性であるキリエはどうしてもオーランドに劣るだろう。
鍛えられたオーランドの動きに、いつまでも着いていくことが出来るとは思えない。
キリエは、オーランドの言葉に応えるように、次の一手に、思い切り呪力を込めた。
白銀の刃が、さらに輝きを増す。
「火力が上がった……?」
軽くいなそうとしたオーランドの鋼の剣に、キリエの渾身の一撃が入る。
「重い……っ」
オーランドは堪らず後ろへ飛び退いた。
鋼の剣が、一瞬で粉々になっていた。
「……やるじゃんっ」
オーランドは楽しそうだった。
オーランドは、すかさず瞬足でキリエに迫ると、彼女の足を払い、強引にキリエを押し倒した。
「なっ……」
キリエは突然のことに刃を振るうことも出来ず、その場に仰向けに倒れる。
「でも残念、……君の敗け」
キリエに馬乗りになったオーランドはその首元に、柄だけになった剣を突き付けて言った。
「ず、ズルい……」
大ブーイングだった。最後のは明らかに力業だ。正々堂々の剣技には見えない。
「い、いえ……私の、敗けです。これが戦場ならば、私は、とっくに死んでいますから……。それに、貴方は、呪力も使わずに……」
たしかに、キリエの言う通りだった。オーランドは呪力を使っていない。術を使うことなく、術士に勝つとは……。騎士が、術士に勝ってしまうのと同じだ。
キリエは、圧倒的な力の差に、感服せざるを得なかった。
「それより……いつまで私の上に、乗っかっているつもりですか。重たいんですけど……!」
キリエの言葉を無視して、オーランドは嬉しそうに、彼女に顔を近付けて言う。
「敗けを認めると言うことは、やってくれるんだよね?水術……!」
ち、近い近い……。
そして、顔が良すぎる……!
キリエは顔を真っ赤に染めて言った。
「やりますよ……!私だって、ランサー帝国軍の兵士ですから、戦士に二言はありません……っ」
オーランドはその一言を聞くと、ビシッとキリエの顔を指差して、勝ち誇ったように言った。
「キリエ、……勝ったな!」
キリエは首をかしげる。
「君は強い。最強の風術士にして、その実、真骨頂は水術なんて……戦術の幅が広がるよ!キリエ、君はいつか、エリンワルドをも超える最強の戦士になるかもしれない。ワクワクさせてくれるじゃんか!」
オーランドは、心底楽しそうだった。
「分かりました!分かりましたから、早く私の上からどけーーーっ!」
キリエの悲鳴がこだました。
こうして、オーランドの指導のもと、キリエは、クアナに水術の手解きを受けることになった。
クアナには、エリンワルド仕込みの水術の豊富な知識があった。奇しくも、キリエは間接的に、大嫌いな兄の水術を、継承することとなったのだった。




