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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第2部───第二章:恋愛云々はさておき、もちろんオーランドも男なので、憎からず思っている愛弟子に、ここまで言わせる悪い魔法使いに対して、全く嫉妬を感じないわけではなかった
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(2)

「逗留……?」

 コールは、帝都からの伝令が持ってきた、皇帝からの直々の要請を、不思議に思って聞いていた。

 リティアのテロを、無事に終結させた労いとともに、コール達コカトリス第三小隊に、そのまましばらくエンティナス城に逗留するよう、要請されたのだった。

「イヤだなあ。もうすぐエンティナスは、冬になると言うのに……」

 雪深く閉ざされることになれば、帝都に戻るのもまならなくなる。いったい何故、エンティナスに留まれと言うのだろうか。

「やっぱり、ニーベルンに何か、不穏な動きがあるんだろうね……。ま、かの国は、何かって言うと、エンティナスを奪い取ろうと、虎視眈々としてるからなあ……」

 今回の件を見ても思ったが、ニーベルン大公は、思ったよりバカではないのかもしれない。オーランドもまさか、ニーベルンが術士を投入してくるとは思いもよらず、危うくエンティナスの騎士団を壊滅させられるところだった。

 ランサーが、こと術士の数では一桁遅れているのをいいことに、足元を見ているのだ。

 ただし、オーランドも、そこまで危惧はしてはいなかった。術士の数では劣っているかもしれないが、こちらには超強力な、『闇術士』というアドバンテージを持っている。さらに今は、クアナをはじめとするリオンの術士の存在もある。

 この間の戦いを見れば、量よりも質で勝っていることは明らかだ。相手は恐らく、今回、重要なミッションとして、国内でも上位の実力の術士を投入してきたはずだが、こちらの術士との力の差はかなりあった。


「あにうえ~、ピクニックに行きましょう!」

 朝食の席、コールが五人の部下達と食事を採っていたら、ノエルが浮き浮きしながら、部屋に入ってきた。

「ピクニック……?」

「ちょっと遠いので、お弁当を持っていきますよ。コカトリス第三小隊の皆さんも、よろしければぜひ……!」

 何のことやら分からないまま、ノエルに案内され、コール達は騎馬にて、ぞろぞろと出かけることとなった。

「隊長と次男って、仲が良いんだな……家督を棄てた兄と家督を次ぐ予定の弟だから、犬猿の仲かと思ったのに……」

 ケンがむしろ残念そうな口調で言う。

「エンティナス公とコールは、尖った雰囲気が共通してるけど、次男は温厚そうだね。やっぱ次男気質ってやつ?……僕もそうだけど」

「お前のどこが温厚なんだ……?完全に、甘やかされて育った次男坊の典型じゃないかお前は……」

 ケンがげんなりした顔で言う。

「ピクニックなんて、何年ぶりだろう……!」

 クアナは、コールの隣で、のびのびと嬉しそうだった。

 季節は秋が深まる頃。エンティナスの山々は、燃えるような紅葉だった。

「もう、傷は大丈夫なのか?」

「うん。やっぱりちょっと、跡は残っちゃったけどね……」

 クアナは手綱を持ったまま、軍服の袖を捲ってコールに示した。右手首から二の腕に掛けて、赤茶けたケロイドのような痕が痛々しい。

 コールは顔をしかめた。

「もう、あんな無茶はするなよ。お前に何かあったら、怖いお姉さまに、なんと言われるか分からないな……」

「だ、ね……」

 クアナは、顔を赤らめて微笑んだ。

 コールが自分のために気遣いの言葉を投げてくれる。それだけでも、クアナの心は弾んだ。

 これはもしや、いわゆる世間で言う『デート』と言うヤツ、ではないのか……?

 まずは、一対一ではなく、グループで、と言うヤツではないのか……?

 やばい、こんなの、楽しすぎる……。

 ノエルさん、心から感謝します……!



「そろそろ、昼食にしましょう。行程も、ちょうど中間点、と言うところです」

 太陽が天頂に昇ったころ、ノエルが皆に声を掛けた。食べ物と野営の道具を運んでいた従者数名が、てきぱきと準備してくれる。

 開けた平原が続く場所だった。天高く青く澄み渡るように晴れ、秋風は吹き抜け、心地よいことこの上ない。

「ノエル、不思議なんだが、ここへ来るまで、まったく魔物の気配がなかったな」

 コールは、隣でいそいそと昼食を配るノエルに声を掛けた。

「さすが、兄上、鋭い。貴方の目は誤魔化せませんね……。僕達が、どこへ向かっているのかも、とっくにお気付きでしょう?」

「そりゃ、なあ……。ケンは分からんが、オーランドあたりはとっくに気付いてるだろう、が……、目的地は分かっても、なぜそこへ行くかが分からん」

 ふふふ……と、弟は笑った。

「それは、秘密です。皇帝陛下からのお達しなんです。僕へ下った大事な特命ですよ。コカトリス第三小隊の皆さんの、日頃の労をねぎらって、丁重におもてなしするように、とね」

「陛下が……?」

 最近鳴りを潜めていると思っていたのに、いったい今度は、何を企んでいる……?

「け、警戒しないでください!貴方にとって、けして悪いことではありませんから……」

 ノエルはコールの顔が曇ったのを見て取ると、慌てて言った。

「クアナ殿下にも、お願いがあるんです。目的地までの間、街道となる予定の道には、タイタンの聖術士が結界を結んでくれているんです。もし、綻びがありそうなら、教えてください。すぐに修復させますから」

「承知した……。修復なら、すぐにでも出来るが、片っ端から直して行く方がいいだろうか?」

 クアナは、すでに結界の危うそうな場所を見つけていたらしい。

「そ、そんなにあるんですか……、凹みますね」

 ノエルはがっかりしていた。

「クアナ姫のお手を煩わせるほどのことではありません。地図に落としておいていただければ、後から修復させます」

「リオンの基準で考えるなよ、タイタンの聖術士が気の毒だ」

 コールは完璧主義のクアナに釘を刺しておいた。一分の隙もない完璧な結界術により、リオンの国内には魔物が存在しないと聞いていた。そんな基準で考えられたらたまったもんじゃない。

「皆さん、楽しんでいただけてますか……?」

 ノエルはまめまめしくメンバーの間を飛び回って、皆に声を掛けていた。

 香ばしいバケット、城の料理人が腕によりを掛けて作った小魚のパテやサラミ、季節のフルーツと、エンティナス産のワイン。

 不満がある訳がない。

「うん、君のもてなしは最高なんだが、……その、なんと言うか、シチュエーションがあれだな、物凄くイヤな記憶が蘇ると言うか、なんとも落ち着かない気分になると言うか……」

 ケンがそわそわしながら言った。

 隣のオーランドは、それには敢えて一言も突っ込まず、自分に飛び火してこないように、静かにしていた。さすがのオーランドも、数年前自分が起こした事件は、触れられたくない黒歴史らしい。

「さっき、兄さんにも言ったんですが、街道には結界を張ってますから、魔物が出る恐れはありません。思いっきり、楽しんでくださいね」

 それは無理そうだ……。ケンは心の中で呟いた。



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