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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第2部───第一章:魔女狩りクエスト
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(1)



「ギランと、エリンワルドが同時に異動だと……!?ったく……人事院はいったい何を考えてやがる……!」

「どうしよう……またコールさんが荒ぶる神になってますよ」

「いつものことだろ」

 フリンが怯えた声をあげると、隣のケンが呟く。

 ランサー帝国の季節は秋。帝国軍は、年に一度の、人事異動の季節だった。

 その日、これからの新しい一年間の体制を考えるため、部室に集まったのは、隊長のエンティナス・コール、貴族出身の風術士ラマン・オーランド、焔術士ケン、地術士フリン・ミラー、そして、隣国の王族にして、ランサー最強の聖術士クアナ・リオン。たった五人だった。

 こともあろうに、人事院はコカトリス第三小隊の主力、ギラン・ロクシスと、エリンワルド・カイルの二人を、同時に引き抜きに掛かったのだった。

「まあ、二人の出世のためと思えば仕方がないことだが……」

 もともと、ランサーでもトップレベルの実力を持つ二人だ。二人は今回の異動先で、ワイバーンとグリフォンのそれぞれ小隊長を任されることになっていた。

 コールは頭を抱えた。

「だいたい、ギランさんが居なくなったら、怒れる隊長を、誰が鎮めるんだ?」

 ケンがこそこそ言う。短気で突っ走りがちなコールを抑えているのは、いつもコールの親友にして冷静沈着な副隊長ギランの役割だった。

「いやいや、隊長も、クアナが来てからのこの一年間の成長ぶりを、人事院に認めてもらえたってことでしょ。ガキ大将みたいに尖りまくってた隊長が、クアナにこてんぱんにやられたのに素直に敗北を認めてみたり、敵方の大将に頭を下げてみたり、昔の隊長からしたら、考えられない話だよ。丸くなりすぎて、張り合いがないぐらいだ」

「な、ん、で、キサマが上から目線なんだ……?一発殴られたいみたいだな……」

 もはやデフォルトになっている二人の掛け合いに、突っ込みを入れられる陣営が少なすぎる。

「だ、大丈夫です。防御系の僕たちが、頑張りますから……!」

 フリンがクアナの隣で、拳を振り上げる。

 年齢だけで言うと、二十歳と十八歳の二人である。

「頼りねえ……ギランさんとエリンさん、凄腕のお二人との格差よ……」

 ケンが悲しそうに言う。

「当然、補充が来るんでしょ?なんで、この場に誰も来てないの……?」

 オーランドが不思議そうに言う。

 コールは頭を抱えたまま言った。

「補充は、タイタンから一人、入隊六年目の風術士が来るらしい。ギランの代わりだな。水術士の補充はないそうだ」

「一人減……ってことですか!?」

 これには全員がどよめく。

 コールが頭を抱える訳だ。

「人事院は、小隊の人数が八人と言うのを忘れてしまったらしい……」

 コカトリス第三小隊は、クアナが来るまでずっと、五、六人のパーティーでやってきた。クアナが入って、ようやく七人体制になったと言うのに、またしても一人人数が減らされてしまった。

「オーランドとクアナが、なまじデキることが、人事院にバレたんだろうな……実質この二人が、ギランとエリンワルドの代わりというところだろう。クアナには、水術士がいない分のカバーをしてもらう。そして……入ってくるのが入隊六年目の術士だけ、と、言うことは、だな……」

 コールは、心底嫌そうな顔をして言うのだった。

「オーランド、お前が副隊長だ。お前に、コカトリス第三小隊副隊長を命じる」

「え……?」

 オーランドはわざと素の顔をして、コールに聞き返す。

「もう一度、言ってもらっていいですか……?」

 目を見開いて、良く聞こえなかった、とでも言うような表情だ。

「お前に、副隊長を命じる」

 コールはイライラして言った。

「……も、もう一度、ゆっくりと、言ってもらってもいいですか……?」

 オーランドは今や満面の笑みで、同じセリフを繰り返した。

「うるさい……っ!そう何度も何度も言うかっ!お前が副隊長だ!他に誰がいるって言うんだよ、このメンバーで……!」

 コールはついにぶちキレた。

「そっか……そう言うことか!主力二人を引き抜いて、部隊長クラスの補充もなしってことは、人事院も、ついに、僕のことを認めたってことだよね……!コカトリス第三小隊副隊長、ラマン・オーランド……!なんていい響きだろう」

 怒り狂うコールを完全に無視して、オーランドは子どものようにはしゃいでいた。

「ふふふふ……」

 クアナは、そんな二人の様子をニコニコしながら見守っていた。クアナは知っている。どんなに罵り合っていても、この二人が、お互いにお互いのことを、ちゃんと認め合っているのだと言うことを。

 オーランドの能力に不足があると思う者は、この場には誰もいないだろう。最強の風術士にして高い才略の持ち主。むしろ、この人とコールがタッグを組めば、向かうところ敵無しといったところだ。

「それで、その新しい風術士とやらは、いつ現れるんですか?」

 ケンが聞く。

「ああ……、それだった」

 コールは我に返って言った。

「新チームの始動開始からいきなり、派兵命令(クエスト)がきてる」

「今日、これからですか!?」

 フリンが悲鳴を挙げる。

「人事院も、鬼だな……」

 ケンも呆れたように呟いた。

 一方で、オーランドは、やる気満々だった。

「僕の初仕事ってことだね、腕が鳴るなあ!」

「まあ、ちょっと落ち着け、お前ら」

 コールは先ほどまでとは打って変わって、真剣な顔をして言った。

「今回ばかりは、浮わついた気持ちで出来る仕事でも無さそうだ」

 コールは咳払いし、一つ息を吐いてから言った。

「『魔女狩り』クエストだ」

「『魔女狩り』……?」

 クアナは、聞き慣れない言葉に反応した。

「在野の術士が、何か罪を犯した時、それを取り締まるのも、帝国軍の術士の大切な仕事なんだよ」

 オーランドは事情を知らないクアナに説明してやった。

 近年、術士の増加に伴い、そのようなクエストが急激に増加していた。

 術士の多くは、帝国の養成学院に入り、きちんとした教育を受けてから帝国軍に所属することになるが、学院に入らなかったり、入ったとしても芽が出ずに術士となることを諦めたりした者が、各地域には多数存在する。

そういった者は、なんらかの形で術により生計を立てていたり、全く関係のない職業に就いたりするのだが、そのような、呪力を持つ人間が、怨恨などにより、術による殺人を犯したり、焔術士であれば、放火事件を犯したりする場合もある。

 悲惨な現場となることが多いことに加え、生身の術士(人間)を相手に戦わなければならないため、気の重いクエストとなることが多かった。

「しかも、相手方はなぜか、俺を指名してきているらしい。……それも、ご丁寧に、俺の故郷、エンティナスを盾取って」


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