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「さ、里帰りですか……?」

 この人はまた、いったい何を言い出すのだろうか……コールは開いた口が塞がらなかった。

「しかし、いいのですか?陛下……曲がりなりにもクアナはリオンの人質です。故郷に帰らせて、何かことでも起こしたら……」

「もちろん、コカトリス第三小隊を護衛に付ける。君が付いていれば、まず心配はないだろう。いまやお姫様は、悪い魔法使いに『ぞっこん』じゃないか。彼女はけして、エンティナス・コールを裏切らない」

 銀髪の青年は、相変わらずの蠱惑的な笑みを浮かべて言うのだった。

 そう言うことか……。

 コールは、またしてもしてやられた気持ちだった。コールは自分のことばかりを心配していたが、その実、ハメられたのはコールではなく、クアナの方だったのだ。

 この人がわざわざ手を回してあんな下らない芝居を打たせたのは、城に閉じ込められる訳でもなく、自由に闘わさせられているクアナが、ランサーを裏切ることのないよう、縛り付けるためだったのだ。

 全く……つくづく恐ろしい人だ。

「クアナ姫も、我が帝国の為に良く尽力してくれている。そのぐらいの礼は尽くさないとね……」

 そして、彼には珍しく、慈しみの籠ったような顔をして言うのだった。

「君も、もう少し自分の気持ちに正直になればいいのに。相変わらず君は、私のことを悪の謀略家か何かだと疑っているみたいだが、いい加減そろそろ私のことを信じてくれてもいいんじゃないか……?私は君の大切な大切な友人だよ。いついかなる時も、私は君の幸せを、誰よりも願っているんだから」

 いけしゃあしゃあと良く言うことだ。

 何度同じことを言われても、コールはただの一度も、この策略家のことを『友人』と思えたことはなかった。

 それにしても、『里帰り』とは……。今度はいったい、何が仕掛けられているのだろうか。

 この人が意味なくすることなど何もない。

 この人が、コールをわざわざこうして呼び出す時は、必ずいつも、『何か』がある時だった。


 しかし、コールには、皇帝の本当の考えは少しも読めてはいなかった。

 『稀代の賢君』と呼ばれるランサー帝国第二十七代皇帝オーギュスト二世の視点は、コールが考えるよりも、ずっとずっと遠大なものだった。

 オーギュスト二世は、二人の行く末に、真実、心を砕いていたのだ。

 リオンの王女の存在は、そう遠くない将来、必ずコールを、ひいてはランサー帝国を救う鍵となる。

――コール、クアナ、ここが正念場だよ。

 愛を育む二人に、最大の試練を与えよう。

 どうか二人の力でこの試練乗り越え、無事に帰還することを、心から祈っている。


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