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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第六章:十七歳の箱入り娘は、残念ながら完全に罠に嵌まっていた
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 隊長、かっこ良かったな……。

 いつもあんな感じだったらいいのに……。

 十七歳の箱入り娘は、残念ながら完全に罠に嵌まっていた。年若い娘が、年上の男性に憧れるのは世の常なので、無理からぬことではある。

 クアナの胸には、コールの語った一連の言葉が、いつまでも残っていた。

 この国に来るまで、クアナは、ランサー帝国は卑劣な手段を使う下劣な者たちの集まりだと思っていた。

 そこに暮らす者たちに、自分はどんな酷い扱いをうけるのだろうか、と。

 でも、コールといいオーランドといい、実際にクアナが出会ったこの国の人たちは、みんな高潔だった。

 立場の悪いクアナに、温かい居場所を与えてくれた彼らに、感謝をしなくちゃいけない。

「おーい、クアナ姫。心ここに有らず、じゃないか。羨ましいにもほどがあるよ、お姫様の心の中は、悪い魔術師のことでいっぱいらしい」

 クアナははっとした。昼下がりの休憩時間、誰もいない部室でごろごろしていたら、いつの間にか、オーランドが現れていたようだ。

「ちっ、違う……っ!断じてそんなことはない……!」

 考えていたことをズバリ見透かされたようで、十七歳の初心な少女は耳まで熱くなっていた。

「あっ……そうだ、オーランド、隊長が居ない今がいい機会だ。貴方に相談したいことがあったんだ……」

クアナは、オーランドと二人きりなんて、これほどいい機会はないと、思いきって切り出した。

「なになに、まかり間違っても恋愛相談なんか絶対にしないでよね、僕の心が死んでしまう……」

オーランドは綺麗な顔を歪めて、うんざりした顔で言った。

「だから、違うと言っているだろう……っ!」

 クアナは必死になって否定した。

「エ、エリンワルドに言われたんだ。闇術士対策を考えるなら、オーランドに相談するべきだって……」

「やっぱりコールの話じゃないか……はあ……」

オーランドは切なげにため息をついた。

「でも……、あのエリンがそんなことをねえ、やっぱりエリンも、僕のことを認めてくれてるんだ、なんか、素直に嬉しいなあ」

 オーランドはまんざらでもなさそうな顔をして、クアナの向かいに腰をおろした。

「……いいでしょう。何を隠そう、僕のライフワークは、闇術士エンティナス・コールの対抗手段を考えることだからね。残念ながら僕は風術士だから、聖術や水術は使えないけど、僕があれこれ机上で考案していることを、クアナに実践してもらえるわけだ。渡りに船じゃないか!」

オーランドの顔は、俄然やる気に満ちて輝いていた。

「そう言えば、オーランドも水術を勉強すればいいのに、どうしてしないんだ?貴方なら、センスもありそうだ」

 オーランドは肩を竦めて言った。

「無敵の純白の呪力をお持ちの聖女様には分からないことかも知れないけどね、僕みたいな純白の下位にある翠緑の呪力しか持たない風術士が、水術を使うには、本家である紺碧の呪力の水術士がやるより、より多くの呪力を使うことになるし、術の習得にも、より多くの時間を要するのさ。だから、僕はそんな効率の悪いことに時間を裂くよりは、得意技の風術の粋を極める方が得策だと思うだけ。まあ、逆はよくあることだけどね。水術には、物理攻撃が圧倒的に少ないから、水術士は最低限身を守るために、取りあえず基本の風術を一通り心得ている人が多いと思う」

 お喋りなオーランドの解説は、分かりやすくて興味深かった。

「対術士戦を想定した時、やり方はいろいろあるんだ。初手から全力を出して、相手に反撃する間も与えず叩きのめす方法。焔術士なんかは、これを得意としてるね。

逆に、相手の呪力が尽きるまで、軽い術で翻弄して、相手の呪力がなくなって、取る手がなくなった瞬間に、大技で一気に倒す、とかね。これは聖術士や水術士のやり方かな。

体力と同じで、呪力の所要量は人によって違うから、基本的にはそれによって戦略を考えると良いと思う。

クアナは、そんなに呪力の所要量が多い方ではないよね。めちゃくちゃ難しくて強い術をいくらでも使えるけど、呪力の所要量は、中の上ってところかな。まあ、これは、鍛えれば多少は増えるそうだから、あまり心配しなくてもいい。

一方で、コールは呪力お化けだ。ただでさえ燃費が悪いと言われてる召喚術を使いまくっても、全然疲れたところを見せない。僕も、コールが呪力切れになって倒れてるとこを見たのは、かつてたった一度だけだよ。

だから、さっき言った、呪力が尽きるまで翻弄するという手は、なかなか難しいと思う。どちらかと言うと、大技で一気に攻める方かな……」

「そ、そうなのか?最近、水術の軽いやつをいっぱい覚えようとしてるんだ。それは、無駄なのか……?」

 クアナは、先にこの人に相談すべきだった、と少し後悔した。

「いや、無駄と言うことは全くない。コールの召喚術や精神攻撃に対処する方法を複数持っておくことは、最低限必要なことで、それを習得してからがスタートラインだよ」

 クアナのやろうとしていることを、説明もなしに即座に理解するあたり、さすがだ。

「じゃ、前置きはこのぐらいにして、実践編と行こうか」


 こうして、クアナの特訓の日々が始まった。

「なんかあいつら、最近やる気満々じゃないか……?」

 コールが何事かと首を捻るほどの熱の入れようだった。

演習場では、クアナとエリンワルドのペアだったところに、オーランドが加わって、習得すべき術の指南を行った。

 クアナのコール対策は、オーランドという最強の軍師が加わって、飛躍的に効率が上がったと言えた。


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