(4)
「……と、言うわけなんだ。世にも恐ろしい話だろう?完全に遊ばれている……」
信頼するお前にしか絶対に相談できないことなんだ、と前置きをしてから、コールはギランにことの詳細を説明した。
「それのどこが恐ろしい話なんだ。素直に受け入れればいいだけじゃないか。お前にとって何一つ悪い話ではないぞ」
ギランからすれば、可愛い姫をあてがってもらえるのに、何をそんなに嫌がることがあるのだ、とでも言いたげだった。
「お前は、あの方の本当の恐ろしさを知らないんだよ……。あの人は、自分の目的を達成するためならどんな手段でも使う……。俺は恐ろしい。俺がもし本気であの可憐な少女にハマってしまったら、それこそそれを『盾』にして、どんな目に遭わされることか……」
コールは青い顔をしていた。
コールをこれだけ震え上がらせることのできる人間が、他にいるだろうか。
「だいたい、あのお方は、クアナを俺の嫁にするためだけに、国一つ動かして、わざわざリオンからランサーに連れて来させたんだぞ。職権の濫用も甚だしいだろう」
「さすがに、嫁にするためだけではないと思うが……」
「だが、リオンの術士を手中に入れたいだけなら、他にいくらでもやりようは有るはずだろう。人質の王女を、高い塔に閉じ込めておくとかなら分かるが、軍隊に配属させて戦わせるなんて、古今東西聞いたこともないぞ」
それはたしかに、ギランも思っていた。
真の賢人は、一つの手段で複数の利益を得ると言う。
どこから嗅ぎ付けたのか知らないが、リオンの王女が優秀な聖術士であることを知って、ここぞとばかりに目を付けたのには違いない。
皇帝は、コールが万一自分を裏切った時、寝首を搔かれないための確実な手段を、確保しておこうと思っているのだ。
「……相手が悪いわな。なんせ、この国の最高権力者だ。陛下に気に入られてしまったことがお前の運の尽きだ。抵抗すればするほど、泥沼に嵌まるだけぞ、この場合。無駄な抵抗は諦めて、とことん付き合って差し上げるしかないだろう」
「この……っ、他人事だと思って……」
コールは俯いて頭を抱えていた。
自ら修羅の道を選んだのだから、仕方のないことだと思うが、なかなか難儀な人生だな……。
「皇帝陛下の真意がどこにあるかは誰にも分からないことだが、一つだけ言えることがある。陛下は、ランサー帝国にとって不利益になることだけは絶対になさらない。あの方の遠大な展望の先には、必ずランサー帝国の繁栄がある、それだけは確かだから、安心しろ」




