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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第六章:十七歳の箱入り娘は、残念ながら完全に罠に嵌まっていた
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(2)

「ちょっと待て。クアナは……?」

 店を出てしばらくした頃、コールはクアナが見当たらないことに気付いた。

「いないな……」

 他の四人も驚いて周りを見渡した。

 ランサーの繁華街は、夜が()けても多くの人が出歩いており、この中から探し出すのは至難(しなん)の技のように思えた。

「俺としたことが……」

 コールは青くなった。クアナを連れ歩く時は、よっぽど気を付けなければと思っていたのに……。クアナは逃げられる訳がないとは言っていたが、万一本当に逃げられたりでもしたら、とんでもないことになる。

 それに、身を守るすべがあるから大丈夫だとは思うが、もしもクアナの身に何かあったら……

「オーランド、索敵の術は使えないのか……?」

「知ってるでしょ、僕は風術専門ですよ。僕にそんな高度な水術が使える訳がないでしょう」

 オーランドは憮然(ぶぜん)として言う。

「くっ……エリンワルドさえ居れば……」

「コール、ひとまず城に戻ってみたらどうだ?クアナも別ルートで、城に帰っているかもしれん」

 ギランが冷静に言う。

「そうだな……分かった。ギランとケンは城へ向かってくれ。俺とオーランドとフリンは、このままクアナを探す。……オーランド、エリンの家は城から近いと言っていたな?場所は知っているか?」

「知ってますよ。非番中に呼び出したら、それこそ怒られそうですけどね」

「そんなことを言ってる場合じゃないだろう……!」

 オーランドは肩を(すく)めて足早に歩き出した。

 エリンワルドの家は生粋(きっすい)の術士家系だ。親は代々水術士だし、たしか妹も軍隊にいると聞いたことがある。歴代帝国軍人だから、家もランサー城下にあるのだろう。


「すごい家だな……」

 ランサー帝国職業軍人の邸宅は、貴族の邸宅と見紛(みまご)うほどの豪邸だった。

「術士の家ってこんなものなのか?」

 エンティナスにあるギランの実家はもうちょっと庶民的だった気がするが。

「さすがにこれ、何か事業でもやってるでしょ。術士も登り詰めればそこそこの給料はもらえますけど、高が知れてますよ」

 あまり絡みがないからよく知らないが、たしかエリンワルドの父親は、グリフォンのどこかの隊の部隊長をしているのではなかったか。

 しかし、今はそんな話をしている場合ではない。

 時刻は夜半より少し前だった。こんな時間だが、取り合ってくれるだろうか。

 コールは恐る恐るノッカーを叩いた。

 夜の静まり返った空気に、ノッカーを打ち付ける音が高く響く。

 ところが、思いのほか扉はすぐに開いた。

「……お待ちしておりました」

 てっきり使用人か誰かが出てくるものと思っていたら、三人を出迎えたのは、年の頃は十歳前後くらいの子どもだった。

 エリンワルドそっくりの淡白な顔立ち、サラサラとした黒髪をおかっぱにした姿は、小さな術士風情だ。

「お待ちしておりました……?」

 三人は顔を見合わせて驚いた。

 エリンワルドはコール達が来るのを予期していたと言うことか?

「こちらへ。父がお待ちです」

 幼い子どもとは思えない応対だった。エリンワルドの教育方針が伺える。

 入ったところは吹き抜けの玄関ホールだった。二人を迎えるために、いくつかのランプに火が灯されていた。

 手近な応接室で、エリンワルドは三人を待っていた。

「驚いたな……すでに事態を把握済みなのか?」

「水術士とはそう言うものだ」

 エリンワルドはさも当然と言う顔をしていた。

「非番中とは言え、城を離れている間は常に隊長の呪力を探知させている。何かあればすぐに動けるようにな」

 コールは天を仰いだ。

 いやいや、『水術士とはそう言うものだ』って、そんなことが出来る水術士が他のどこにいるって言うんだよ……。

「馬鹿なこと言うな。そんなことしてたら、呪力の消費が半端ないだろう」

 索敵にどのぐらいの呪力を消費するのかは知らないが、四六時中呪力を使い続けることになる。

「俺の呪力は大丈夫だ。長男にやらせているからな」

 エリンワルドは視線で傍らの子どもを示した。

「なに……?」

 コールは、静かに傍らに(はべ)る小さな男子の顔を見た。どう見ても学院入学前の年端の行かない子どもにしか見えない。

「す、末恐ろしい子ですね……」

 フリンがもはや(おび)えたような声で(つぶや)く。

 どうやら最強の水術士を量産していると言う噂は本当だったようだ。

「一個だけいいか、エリン……」

「なんだ?」

「このぐらいの歳の子どもには、たまにはもう少し楽しいこともさせてやってくれ……不憫(ふびん)でならん」

 にこりともせず(かたわ)らに侍っていた少年の顔がはっ……と色を変えた。

「発言、お許しいただけますか、サー?」

 少年は一言許可を求めてから言った。

「……楽しいので、ぜんぜん大丈夫です」

 オーランドはククク……と、たまらず吹き出す。

「楽しいよね、分かるわかる……」

 『発言、お許しいただけますか』じゃ、ねえ。自由に発言させろ、子どもにぐらい。コールは、心の中でエリンワルドに突っ込みを入れていた。

「そんな話をしに来たのか?」

 エリンワルドは話をぶった切って言った。

「そうだった。あまりの異様な光景に、つい取り乱してまった……。エリン、クアナが居なくなった。いますぐ居場所を探してくれ……っ!」


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