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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第六章:十七歳の箱入り娘は、残念ながら完全に罠に嵌まっていた
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(1)

 クアナは絶対絶命のピンチに陥っていた。

 場所はランサー城下の、小さな商店の地下室のようなところだった。

 人混みの中で、痺れ薬でも嗅がされたのか、全く抵抗もできないまま、この場所に連れ込まれたのだ。

 クアナをかどわかした男は二人組だった。コカトリス第三小隊の六人がしばしばたむろする、行きつけの酒場の付近で、クアナたちが店から出てくるのを待ち伏せしていて、後を付けられていたらしい。

 ランサーの治安は悪くないが、よからぬ輩もいる、と言っていたコールの言葉を思い出す。

 二人はクアナが所属している、ランサー皇帝直下の軍隊ではないが、地元の警備兵らしき、制服を着ていた。

「貴方たちはそのあたりのゴロツキではないようだ。ランサー城下の警備兵が、なぜこんな卑劣なことをする?軍服に恥じないのか?」

 クアナは無造作に床に転がされていた。右の頬と右腕に、薄汚れた地下室の冷たい床の感触が伝わってくる。

 話すことは辛うじてできたが、呪力を使い果たした時と同じぐらいに、指一本動かせない状態だった。

「悪いな、お嬢さん。俺たちも偉い人にお願いされて、やってるだけなんだよ」

 言葉の割に、男はにやつきながら、抵抗出来ないクアナの腕を取り、その場に準備されていた縄で後ろ手に縛り上げた。

 痛い……っ。恐怖に心臓が早鐘のように打っている。

クアナは考えていた。身体が動かなくても、術は使える。

 この二人を殺めずに、この場を脱出する(すべ)は何だろうか。

 この狭い空間で、下手に自分が大味な術など使ったら、二人の生命を奪ってしまうことになる。

 クアナはランサー帝国に差し出された人質だ。警備兵とは言え帝国の兵士を殺めたとなれば、どんなお咎めがあるか分からない。

 やはり、風術か……?でも、クアナは風術は苦手だ。あれは熟練を要する術だ。よほど使い慣れていないとコントロールが難しい。

「おい、本当に大丈夫なのか?なんだか偉く高貴な方のようじゃないか……。帝国軍の軍服も着ているし」

 もう一人の男は、及び腰のようだった。てっきりクアナの身分を知って襲ったのかと思っていたのに、命じられただけで、クアナが何者かも知らないらしい。

「金貨百枚だぞ。こんな別嬪さんを相手にするだけで……。めちゃくちゃ実入りのいい話じゃねえか」

 お金のためにこんなことをしているのか……。いったい誰が、何のために……?

 コールは『禁術』を使うし、異例の出世をしているせいで、敵が多いとは聞いている。コールを窮地に立たせるために何者かが動いていると言うのか……?

「私を、どうする気だ……」

 ふふふ……男が笑みを深める。

「殺さなければ、何をしてもいいと言われてるんだ」

 男は片手に持った刃物をちらつかせながら言う。

「抵抗すると、痛い思いをすることになるぞ」

 いよいよ物騒なことになってきた。

 男は片手でクアナの髪を掴むように押さえ付け、わざと怖がらせようとしているかのように、刃の峰でクアナの頬を撫で下ろした。

 クアナは思わず目を瞑る。

 コール、ギラン、エリン……コカトリスのみんな、お願いだから、早く助けに来て……!

「かわいそうに……泣いてるじゃないか」

 及び腰の方の男は、人が良いらしく、十七歳の少女が泣いているのを不憫に思ったらしい。

「〝薄鈍(うすにび)の壁〟」

 クアナは防御に徹することにした。

 クアナの周囲に見えない防御壁が現れる。水術には珍しい、物理系の防御術だ。

 最近習得したばかりの術だ。エリンワルドに教えてもらっていて良かった。

 呪力は大事に使えと教えられたばかりだ。燃費の悪い聖術の防御術は使えない。

「この()、軍服を着ていると思ったら、術士なのか……?」

 人の良い方の男が驚いたように言う。

「くそっ、なんでだ、全く近づけないぞ……っ」

 もう一人の男が刃物でクアナの周囲を切り付けるが、壁に弾かれたように、全く通用しない。

 これで、ひとまず身の安全は守られる。あとは何とか、クアナの呪力を辿って、誰かが助けに来てくれたら……。


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