(8)
「コール、何をニヤニヤしてるんだ。ついに気が狂ったか?」
ギランとコールは、二人きりで帝国図書館に籠っていた。自分のパーティーのメンバーですら、信用が出来なかったからだ。
図書の書物を漁って、ドラゴン討伐の対策を練っていると言うのに、当のコールは、ピクニックの計画でも立てているかのように楽しそうだった。
「いや、シノンのドラゴンの呪力が『漆黒』だと言うのは、思いがけない副産物だと思ってな」
「まさかドラゴンを、『調伏』できるのか……?」
「知らん。もちろん、有史以来誰もやったことがないことだ。だが、もし可能なら、俺は人類で初めて、ドラゴンの飼い主になれるわけだ」
「何をバカなことを……」
はあ……。ギランは思わず溜め息をついた。コイツは、闇属性の魔物に目がないんだった。召喚術を使うためには、漆黒の呪力を持つ闇属性の魔物と対峙し、調伏する必要があるから仕方がないことなのだが、コレクターのようにマニアックに闇の魔物を追い求める姿は、ちょっといただけない。
「そんな、悠長なことを言っている場合なのか?今回ばかりは、さすがに無謀だと思うぞ。たった五人でドラゴンの討伐とは」
コールを亡き者にして、ほくそえむ者達のうすら笑いが目に見えるようだった。
俺がどれだけ、この破天荒な親友のために心を痛めているか、こいつは全く分かっちゃいないのだ。
「俺には、お前が生き急いでいるようにしか見えないぞ。もうエンティナスにいたガキの頃とは違うんだ。命より大事なものなど何もない。ドラゴンの討伐なんて力不足ですと素直に認めて、もう二度と闇術は使いませんと、陛下の前で誓ったらどうなんだ」
「お前までそんなことを言うのか……」
コールはギロっとギランを睨み付け、憮然とした表情で言った。
「ラマン・オーランドにも、全く同じようなことを言われたよ。俺が闇術に拘るあまり、自ら破滅に向かっているようで滑稽だ、とまでね……」
オーランドが……?ギランは意外に思った。そんな、お節介を焼くタイプには見えないが。
「思ったより骨のあるヤツじゃないか」
ククク……ギランは、堪えきれず笑っていた。コイツのことだ。あんなあまちゃんに、正論を振りかざされたら、よっぽど腹が立ったことだろう。
「でも、おかげで気付かされたこともある。子どもみたいに腹を立てて、駄々をこねているだけじゃ何も解決しない。俺がこの国で闇術士としてやっていくことを選んだ時点で、遅かれ早かれこういう問題が起こるのは分かっていたことだ。……俺はこのくだらない茶番劇に、決着を着けなければならない」
そう言ったコールの表情は、聖者のように静かだった。
「せっかく機会を頂いたんだ。真っ向勝負といこう」




