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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第四章:新生コカトリス第三小隊のパーティーは、有り合わせも良いところだった
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(3)

「俺とお前は、境遇(きょうぐう)が似てると思わないか?名のある家門の生まれでありながら、術の力に魅了されて、わざわざ家を棄ててまで術士の道を選んでいる」

 オーランドはついさっきまで考えていた図星(ずぼし)を指されて、思わず言い返した。

「あなたなんかと一緒にしないでください。僕はただの風術士ですよ。あなたみたいに、わざわざ禁を(おか)してまで危険な術に手を染めようなんて絶対に思わない。……それに、僕はラマン家の次男です。僕にはハナから家門を継ぐ資格なんてありませんでしたから。超名門武家の家督を譲ってまで、わざわざ術士になるなんて、僕からしたらとても正気の沙汰(さた)とは思えない」

「なに……?」

 穏やかだったコールの顔色が変わる。

 オーランドはまずい……、と思いながらも、気持ちが高ぶって、自分の言葉の奔流(ほんりゅう)(とど)めることが出来なかった。

「なぜ、そんなに闇術に(こだわ)るんですか。禁術など使わなければ、目を付けられたり、敵を作ったりすることもないのに。貴方ほどの使い手なら、焔術や地術の技を(みが)けば、それだけでも術士として充分に名を成せるでしょう。僕には、貴方が禁術に(こだわ)るあまり、自ら自分自身を破滅させようとしているようにしか見えない、あなたの姿はむしろ、滑稽(こっけい)にすら見えますよ……」

 オーランドが言い切る前に、コールは、オーランドの胸ぐらを(つか)んでいた。

 (なぐ)りたければ好きにどうぞ……オーランドは完全に捨て鉢状態だった。

「何とでも言うがいい。……お前の言い分は分からないでもない。俺も逆の立場であれば、お前と全く同じ感想を持ったことだろう」

 コールの怒りが、どす黒い呪力となって身体中から()き出しているように見えた。

「だが、どれだけの代償を払ったとしても、『掛けるべき価値』があると思うから、しているだけだ。自分以外の他の誰に頼むことも出来ない、漆黒の呪力を持つ俺にしかできないことだ。俺がいま、ここで道を(ひら)かなければ、闇術は、後にも先にも、誰にも省みられることなく、(ほおむ)り去られるだろう」

 コールはそこまで言うと、言うことはそれだけだとでも言うように、掴んでいた手を離した。

 ……こいつ、やっぱりバカだ。こういう手合には、何を言っても無駄だ。

 オーランドは、毒気を抜かれたような気持ちになった。殴られると思ったのに、その口から出てきた言葉は、まるで祈りの言葉のようだった。

「つまるところ、『自分の術が大好き』ってことですね……」

 オーランドは溜め息をついた。

 地位も名誉も棄てて、その身を(なげう)ってでも、闇術の開拓者になる……か。

 そこに、駆け引きなど存在しないのだ。

 因果(いんが)なことだな。

 僕も含めて、術士というのはみんなそうなんだ。

 大なり小なり、自分の力を愛してやまない。こんなにも素晴らしい力を持っているのに、使わないなんてもったいない、そう思いながら毎日戦っている。

 出来ればこの人が、闇術を諦めてくれれば話は簡単だと思ったのだが、理屈とか打算じゃなく、純粋な動機に突き動かされている人間を、言葉でどうこうしようと思ったって、無駄だ。

「それは、僕も同じです」

 だから、お願いだから僕達をほっといてくれ。好きにやらせてくれたら、ちゃんと国を守るから。オーランドは、自分たちの足を引っ張ろうと暗躍する者達に、心の中で怨言(えんげん)を吐いた。

 そんなオーランドの様子を見て、コールも怒りの矛先を納めたのか、駄々漏れだった闇のオーラが(しず)まっていた。

「気に食わないかもしれないが、俺の部下になってしまった以上、貧乏くじでも引いたと思って諦めてくれ」

 それだよ。……こんな人を相手に戦わないといけないのか僕は。貧乏くじなんて生易(なまやさ)しい話じゃないぞ。


「コール、どこに行ったかと思えば、こんなところに居たのか……!」

 バタバタと走ってきたのは、副隊長のギラン・ロクシスだった。

「通報が入ったぞ。派兵命令(クエスト)だ」

 派兵命令は、いつも突然やってくる。

「マラノ郊外の平原だ。ビースト系の魔物が大量に発生しているらしい」

 パーティーの待つ城門へ向かいながら、ギランが手短に状況を告げる。

魔獣(ビースト)系だ?そんなもん、地元の警備兵でなんとか出来ないのか」

「だから、『大量に』()いてるんだろ」

「いずれにしても、結界士のいない僕たちに振る仕事じゃないですね」

 残る二人と合流し、五人は騎馬にて現場へ直行した。

 ビースト系の魔物――魔物とは言え、飢えた(おおかみ)などと大して変わらない。

 魔獣が出現しただけならば、地元領主が抱えているはずの兵士で充分対処できるはずだ。

 術士が出張(でば)るほどの案件ではない。

 数が多くて倒しきれないのならば、発生源になっている結界の(ほころ)びを見つけ出し、魔物の発生を食い止める必要があるが、このパーティーには結界術のできる聖術士がいないのだから、それも不可能だ。

 明らかにコカトリス第三小隊には『向いていない』クエスト。配属初日にこんな案件を振ってくるとは……。

 オーランドは冷めた気持ちで分析していた。先手必勝ってやつかな。コールも隊長として采配(さいはい)を振るのは初めての経験。

 しかも、パーティーは結成したばかりで、個々の実力や得意とする術が何かも把握出来ていない状況。

 加えて、このギャラリー。

「なんだこの現場は……」

 現場に辿り着いた一行は、戦場の混乱ぶりに絶句した。

 宵闇(よいやみ)の中で、逃げ遅れた隊商(キャラバン)の荷馬車が散乱し、今しも、大勢の商人たちが魔獣に襲われている。

 そして、それを守るために手に手に松明(たいまつ)を掲げながら、魔獣と戦っている警備兵たちが多数。

 術士にとって、一番やりにくいのはこういった現場だった。

 魔獣の群れなど、焔術で焼き尽くせば一瞬で片付けられる。だが、これだけ一般の人間がいると、巻き添えを恐れてそれもできない。

「帝国軍の紋章……帝国軍の術士が助けに来てくれたぞ……!」

 駆け付けた一同を見て、口々に歓声があがる。

 そして、これだけの観客ギャラリー)がいる中で、闇術士であるコールが商人たちの命を救えずに惨事を起こせば、瞬く間に闇術士への悪評が広がる、という算段だろう。

そして僕は、手を汚さずして与えられた難問をさっさとクリアできるわけだ。

 誰が考えてお膳立てしたのか知らないけど、上等だな。

 お手並み拝見(はいけん)といこうか、コール隊長。


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