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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第4部(下)───第六章:『魔王』と『魔王を討伐するはずの聖女様』は、こともあろうに愛し合っていると言う噂じゃない。魔王の鎖に繋がれた聖女様だなんて……禁断の恋だわ……
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 北部戦線の戦いは、その後数週間長引いた。エンティナスを落とそうとするアーティファクトのゴーレム部隊と、術による強化(バフ)の掛かった非術士の人間達との戦いは、実力が亀甲(きっこう)しているだけに、激戦とならざるを得なかった。

 キリエは戦いをやめて、帝国軍の医療班を手伝っていた。どちらの味方をすることも、無意味だと思えたからだ。

 目を(おお)う惨状だった。

 傷付いた兵士達が、ひとまず前線付近で応急処置をほどこされ、次々とエンティナスの領地にある医療機関へ運ばれていった。

 キリエの献身的な姿に心を動かされたエリスも、ワイバーンを使って負傷兵たちを運ぶ役割を手伝っていた。いかに漆黒のブレスと飛行の能力を持つワイバーンといえど、投擲(とうてき)(こと)とするアーティファクトのゴーレムとは、相性が悪い。

 いや、そもそも魔王討伐パーティーのメンバーであるはずのエリスが、魔王を味方に付けた『闇の帝国』たる帝国軍にくみしてカゼスと戦うこと自体がおかしいのだが……。

 エリスもキリエも、どちらの味方をすべきなのか、もはや分からなくなっていた。

 そしてリッカもアーサーも、アーティファクトと非術士たちの戦いの手助けをするためにとっくに戦場へ(おもむ)いていた。

 

「キリエ……お久しぶりです」

 そんな中、医療班にて、負傷兵を助けるフリンと再会した。

「あなた……!いったい今の今まで、どこをほっつき歩いてたのよ……っ!」

 キリエは思わず声を荒げる。

「ちゃんと、ナセル陛下から回復呪文を授かってきたんですよ」

 フリンは、シノンでコールに命じられたことに、忠実に従っていた。

「実は僕、誰よりも真っ先にコールさんに会いに行ったんですよ。こっぴどく追い返されましたけどね……」

 フリンは寂しそうに言った。

 今なら彼が、なぜあの時自分を(おど)し付けるようにして、「帝都へ帰れ、そこで己のなすべきことをしろ」と言ったか、その意味が良く分かった。

「僕は、コールさんに(おのれ)のすべきことをしろと言われましたので。彼女とともに、ここで、一人でも多く、人間を救いたいと思います」

 キリエは、フリンの傍らに居る女性を見て驚いた。

 これがミングルの女王ナセルなのか……?ナセルはクアナと同じぐらいの背丈の、小柄な可愛いらしい女性に姿を変えていた。

「驚かせたな、紺碧の術士よ。我々プレイヤーはこの通り、人間の振りをすることができるんだ」

 キリエは、戦場に咲く一輪の花を見たように、心が和むのを感じた。

 小さな恋の物語だ。

「あなたたち、お似合いだわ」

 そうよね、フリンは昔、このお方に(ひざまず)いて、『身も心も捧げる』と誓っていたものね……。

 キリエは妙に納得して二人の様子を見ていたが、ナセルは面白そうな顔をし、フリンは呆れ顔だった。

「キリエさんも相変わらずですね……このような状況下で、そんな話をしている場合じゃないですよ……」

 その後、フリンは、休む間も惜しむように、回復呪文により、死に(ひん)する重症者を優先して助け続けた。

 そのひた向きで献身的な姿は、敬愛するコールが(おか)した罪を、少しでも肩代わりしようとしているかのようだった。

 『褐色の王』の力を受け継いだ褐色のアバターに出来ることは、純白と漆黒の戦いにより傷付いた者達を、一人でも多く救うことだった。


「た、助けてください……!」

 若い術士が、やはり同じぐらいの年頃の赤い短髪の女性を腕に抱えてフリンの元へと駆け込んできた。

 フリンの元には、噂を聞き付けて、彼女のような重症者を背負った衛生兵達が、次々と押し寄せていた。

 フリンは顔をしかめた。

「申し訳ない……僕は、回復呪文は使えるけれど、それは傷を(いや)すだけなんだ」

 フリンはこの上なく(つら)い事実を伝えるように、(おごそ)かに言う。

「この人は、すでに生命がない。死者を蘇らせる力は、僕にはないんだ……」

「そんな……!何とかならないんですか……!この人は、僕の友人なんです!……昨年、結婚したばかりなんですよ……っ。故郷では、夫が彼女の帰りを待っていると言うのに……」

 青年の悲痛な叫びが空しく響く。

「本当に……申し訳ない」

 死者は、日に日に増えていく。

 フリンは回復魔法で、本来ならば死に値するほどの重症者も救っていたが、それ以上に、助けられず死んでいく者もたくさんいた。


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