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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第4部(下)───第三章:何をぬるいことを言っている。俺は『魔王』だぞ。俺の辞書に国際法(ルール)などと言うものは存在しない
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 南方諸国の筆頭である、コルネイフ王国の将軍ゲルギオス・アセンシオは、七つの国から集まった、総勢七万人規模の兵を引き連れて、折しもカイラス山連なるラサ山脈を北へ行軍中だった。

 リオンに武装兵がほぼ存在しないことは承知の上だったので、国際法が効力を発している限り、リオン王国を恐れる必要はなかった。

 一行は、リオンの東を迂回(うかい)して山を降り、ランサーとの国境手前に兵を展開させる予定だった。

 ランサー帝国は、いま、シノン公の造反により、内乱の最中(さなか)にあった。

 ランサー皇帝が、北部シノンとエンティナス領への対処に掛かりきりになっているところを、南から討とうと考えるのは当然の成り行きで、早ければ早いほどいい、と、南方諸国から、ありっ丈の兵をかき集め、満を持してランサー帝国へ宣戦布告しようと言うところだったのだ。七万の兵があれば、ランサー帝国にも充分に対抗できる。

 ところが、南方諸国の諸王たちも、軍隊を率いていたコルネイフの将軍アセンシオも、誰一人として一切想定していなかった事態が、ラサ山脈で待ち受けていた。

 山越ルートに、灼熱のドラゴンと、漆黒のドラゴンが立ち塞がっていたのだから。

「な……これはいったい、何事だ!?」 

「将軍……これ以上の行軍は無理です……!ドラゴン二体を同時に相手できるほどの術士は、我が軍にはおりません……っ!」

 伝令は、必死で将軍に訴えた。

 行軍中に出くわす可能性のあるモンスター対策として、術士部隊も数隊連れてきてはいたが、その程度では、ドラゴン二体を同時に相手することなど不可能だった。

「くっ……なんとか、ドラゴンを迂回(うかい)して山を抜ける方法は無いものか……。ここまで来て取って返すなど、とても許されることではないぞ……」

 七万の軍隊を動かすのは、容易な話ではない。大所帯の軍隊など、ドラゴン討伐には全く向いていない布陣だ。下手をすればせっかく()き集めてきた兵達を無駄に失うことになる。

 将軍が軍隊をそのまま進ませるか、退(しりぞ)かせるべきか、躊躇(ちゅうちょ)していた時だった。

 黒龍の背に乗って、一人の男が悠々と将軍の目の前へ姿を現したのは。

「お前が総大将か……?俺は、シノン公コールだ。ここを超えてランサー帝国へ攻め込むつもりなら、悪いがここで、食い止めさせてもらう……!」

「っな……シ、シノン公コールだと……?ランサー北部領土の(あるじ)である貴様が、何故こんなところにいる……っ!?」

 にわかには信じがたいことだったが、黒いドラゴンの背に乗っており、術士でない自分にも、ひしひしと伝わってくる負のオーラは、目の前の男が『魔王』と呼ばれるシノンの(あるじ)であることを示している。

「奇遇だな。俺も正直、貴様らの巡り合わせの悪さ具合に、ただただ驚かされているところだ」

「なっ……貴様、ふざけているのか?」

 飄々(ひょうひょう)とそんなことをのたまう敵国の闇術士に、将軍は思わず言った。

「これがふざけているように見えるか……?俺は騎士ではないから、軍隊を率いて戦争をした経験はないが、総大将をまず叩くのが定石(じょうせき)……という程度のことは知っている。なあお前、悪いことは言わんから、さっさとその大所帯の軍隊を連れて国へ帰ることだ。それとも、お前に、俺の闇術で、地獄に堕ちる勇気はあるか……?」

 目の前の『魔王』は、歴戦の将軍すら震え上がらせるような、負のオーラを撒き散らしながら言い放った。

「な……き、貴様、術士であろうっ!?国際法で、国同士の争いに、術士を投入してはならんという決まりがあるのを、知らないのか……っ!?」

 必死で言い(つの)る将軍に対し、魔王コールは、こちらを完全に小馬鹿にしたような不遜(ふそん)そのものの顔で言う。

「何をぬるいことを言っている。俺は『魔王』だぞ。俺の辞書に国際法(ルール)などと言うものは存在しない」

 とち狂った弓兵か、あまりにも不遜(ふそん)な敵国の術士に矢を射掛け、雪崩(なだれ)を打ったようにその周囲の者達がそれに続いたが、飛行の能力を持つドラゴンはそれを軽々と交わし、例え当たったとしても、金属の(やじり)程度では固い龍鱗(りゅうりん)を、傷付けることすらできない。

「それがお前達の返答か……残念だ」

 闇のドラゴンは容赦ないブレスを放つ。

 南方諸国同盟軍の総大将は、漆黒のブレスの直撃を受けてあっけなく倒れた。

「……こんなところだな。貴様らの(かしら)は戦闘不能になったぞ。お前ら、命が惜しければさっさと国に帰って、自分たちの王に伝えるがいい。ランサー帝国は俺の所有物(もの)だ。ランサーに楯突く者はすべて、闇の軍勢の敵とみなす。国を滅ぼされたくなくば、大人しくしていることだ……とな!」

 七万の兵は、震え上がり、完全に戦意を喪失していた。

 コールがこれ見よがしに、ありっ丈のスピリットを呼び出したからだ。

 日の光に溢れていたはずのラサ山脈は、闇に閉ざされ、当たり一面、地獄絵図のように幽鬼たちが兵士を(おびや)かしていた。

 漆黒のプレイヤーに力を付与されたコールの呪力は、いまや無尽蔵(むじんぞう)かに思われた。

 百、二百……下手をすれば数千も数える召喚獣を喚び出して、平気な顔をしているのだから。

 将軍を失った、哀れな南方諸国同盟の兵士たちの目に映るシノン公コールは、正真正銘の『魔王』だった。


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