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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第4部(下)───第一章:災厄の魔女イグレット
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(2)

 エリスはティエムの背に乗り、戦乱のエンティナス領の上空を通過して、ランサー城へ到着した。

 騎馬では一月以上もかかる道のりも、飛竜の背に乗れば、半日と掛からない。

 エリスがたどり着いた、ランサー城の円卓には、錚々(そうそう)たるメンバーが集められていた。

 ワイバーン第一中隊隊長ギラン・ロクシス。グリフォン第二中隊隊長エリンワルド・カイル。コカトリス第三小隊隊長オーランド・セカールと、その妻キリエ。そして、ランサー皇帝オーギュスト二世その人は、上座には座らず、その隣に腰を降ろし、上座はなぜか一つだけ、空席となっていた。

「久しぶりだね、エリス。コールのかわいい弟分」

 オーランドは、このような事態にも関らず、エリスの姿を認めると、片目を(つむ)って言った。

「全員、集まりましたね……」

 オーギュスト二世は、集まったメンバー全員を見渡して、宣言するように厳かに言った。

「当面、このメンバーが、『コール討伐』のパーティーです。君たちに、君たちにしか頼めないクエストを依頼する。……コールを、救ってあげてくれ。私には、彼と、クアナを出逢わせてしまった責任がある」

「わざと、なのかな、それは……」

 集まったメンバーは全員、驚いて上座に座った人物を見ていた。

 上座は先程まで、ぽっかりと空席だったはずだった。

 いつの間に現れたのだ……?

 女は、尖った耳に、高い鼻筋、端正な顔立ちに、(つや)やかな白髪を長く伸ばしていた。

 万人が思い浮かべる、お伽噺に出てくる『エルフ』の姿、そのものだった。

 エルフ……?そんなもの、現実に存在するのか。

 神代の終わったこの現代の地上世界に、半神族のエルフなど、存在しないはずだった。

「急に出てこないでください、びっくりしますから……」

 皇帝が呆れた顔をして言った。

「そして、お尋ねいただいたことにお答えするなら、『わざと』ではありません。私のような人間ごときには、悪魔や神の遣い達が、何を考えているのかなど、及びもつきませんから」

「しかし、人間の考えることにしてはなかなか『悪くない手』だと思って見ていたよ。まさか悪魔の手先たる者の芽を、摘み取るのではなく、友人として手懐けてしまうとは……」

 エルフの女は愉快そうに笑う。

「貴女からの助言がなければ、私もここまでのことはできませんでしたよ。まさか、神話の世界の『悪魔』が現実に存在して、地上の人間を狙っているなんて、誰が思うでしょうか……」

 オーギュスト二世が、ランサー帝国初の闇術士エンティナス・コールを、いつでも排除できる立場に有りながら、排除することなく登用してきたことには、もちろんオーギュストが彼の人柄に強く()かれていたこともあるが、そもそも、気紛れに話しかけてきた、この半神族のエルフからの助言があってこそのことだった──漆黒の悪魔が地上に争いの種を巻いている。

 もしも、エルフの言うことが本当なら、例えコールを排除したところで、何か更なる別の手を打ってくるだろう、それならば、(ぎょ)しやすく『善良な』コールを味方に付けるべき……オーギュストはそう考えたのだった。

「紹介しよう。彼女の名は、【半神族(エルフ)の長イブラシル】。今は彼女が、『翠緑のプレイヤー』としてこの世に君臨している。実際に、その目で確認しないことには、君たちも到底信じられないだろうから、わざわざお出ましいただいたんだ。我々のバックには、こうして翠緑のエルフが、そして、コールの背後には、漆黒の悪魔が、それぞれゲームのプレイヤーとして存在する、そう言うわけだ」

「勘違いをするな、我はお前たち人間の味方などではないぞ。我々『翠緑』の勢力は、あくまで傍観者(ぼうかんしゃ)。本来ならば、人間は人間の力だけで、自然のままに繁栄するなり、衰退するなりすればいいと、傍観する立場だ。それが、鬱陶(うっとう)しくも漆黒の魔女が下らないゲームを始めて、人間に干渉などしようとするから、正しい方向に戻そうとしているだけだ」

 エルフはそこで一度言葉を切り、その場にいる全員の目を見ながら、続きを言った。

「『漆黒』の対抗色が何色(なにいろ)かなど、分かりきっていることだろう?お前たちが、(しん)に助けを求めるならば、相手は『純白』だよ。ゲームはあくまで、チェスゲームの盤上のように、白対黒の戦いだ。残念ながら、『彼』は酷い臆病者だから、頼りになるかは(はなは)だ怪しいがね……。『漆黒の悪魔』が、血で血を洗う闘いをお望みならば、どうしたってお前たちは『純白の天使』を、引っ張り出さないわけにはいかないだろう」

 こうして、中立の色、翠緑のエルフの助言により、コール討伐パーティーは、純白の天使を探す旅に出ることとなった。

 イブラシルの言葉によれば、臆病者の天使が地上に降り立つとすれば、悪魔の手先である魔物の存在しない、『清浄な地』だろう、と言うことだった。

 西大陸で魔物の存在しない、清浄な地と言えば、答えは明白だ。

 リオン王国しかない。一行は、ランサー帝国南部、険しい山地の中に存在する、リオン王国へ、出発することとなったのだった。



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