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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第4部(上)───第三章:オーランドは、普段無造作に一つ結びにしているキリエの髪を、ほどく瞬間が大好きだった
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 カゼスを辞する帰り道。オーランドはずっと不機嫌だった。

 いつも陽気で明るい彼が、こんなに不機嫌なのも珍しい。彼はよほど、矜持(プライド)を傷つけられてしまったのだ。

 そして、それをしたのは他ならぬキリエだった。

 二人はカゼスの首都カリエスの市街地を静かに歩いていた。

「ごめんね、本当に……」

 彼がこれほど不機嫌なのも初めてなので、キリエはどう対処していいのか分からなかった。

「キリエ……僕は……」

 思いがけない頼りない声。

 大都市の街中で、オーランドはキリエを自分の懐に入れて、ぎゅっと抱き締めながら言った。

「初めて、キリエを失う怖さを知ったんだ。キリエの言う通りだよ。僕は、タカを括ってた。キリエが、『この僕』から離れることなんて、絶対にないってね……とんだ自惚れでしょう?」

 キリエは思わず微笑んでいた。たしかに、とんだ自惚れ屋だ。まあキリエは、そんなことは重々承知の上でこの人と結婚したんだけど。

「お願いだから、もう、二度と、あんな酷いことは言わないで……」

 彼に似合わず、傷付いたような声が、たまらなく愛しかった。

「ごめんなさい。私はもう、何があっても貴方を裏切りません」

 絶対に絶対に、浮気なんか出来ないことが分かってしまった。

 この人は、綺麗なおねえさんを見付けるとすぐにデレデレするくせに、そんな自分のことは棚に上げて、キリエが浮気なんか起こそうものなら、一刀両断にふされることだろう。

 怖すぎる……。この人の本気の怒りと言ったら、最強の闇術士も顔負けの恐ろしさだった。

 こんなご仁に、溺愛されてしまったことが、キリエの運の尽きだ。

「じゃあ、『オリー』って呼んで」

「え……っ?」

「母親にそう呼ばれるのはむしずが走るんだけど、キリエに言われるのは、好きなんだよね」

 オーランドは至極真面目な顔をして言う。

「お、オリー……」

 仕方がないので、キリエは意を決して言った。

「オリー、私は貴方を二度と裏切りません」

「うん、じゃあ、恋人繋ぎして」

「……えっ……」

「今度ごはん食べる時、あーん……っ、もして……」

「ええ……っ?」

「ここでキスして……!」

「それはちょっと……!」

 厄介過ぎる……。

 なんて人だ。

 そんなことは重々承知で結婚したのだが。

 どう考えても甘やかされて育った貴族の次男坊だ。性格歪みまくっている。

 国家の危機かもしれないと言うのに、皇帝陛下からの命令も棚に上げて、即答で自分の妻を採るなんて……。

 バカじゃないのこの人……!

 キリエは夫を大馬鹿者だと心の中で(ののし)っていたのだが、この半月後、二人が帰還し、ことの詳細の報告を受けた皇帝は、二人を全く(とが)めなかった。

 皇帝の目論見、二人に与えた命令は、すでに達成されていたからだった。

 【紺碧のプレイヤー】がランサー随一の紺碧の名門『カイル家』出身の水の使い手、キリエに興味を持つ、これほどまでの正解は、他に考えられなかった。


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