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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第3部───第五章:地底世界(アガルト)の女王ナセル
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 すごくイヤな予感がした……と言うことは、話さないで置くことにした。コールの思い過ごしかもしれないし、この小さな少女を、無駄に怖がらせるのもかわいそうだ。

 城の右翼と左翼の中心部分に、外へ出られるバルコニーがあった。

 二人は話しながら、城の前方へ向けて開かれたバルコニーに続くガラス扉を開けて、外へ出た。

 眼下に、眠れるアガルトの街が広がっている。ほとんどの灯りは消えているが、ところどころちらちらと、灯りが灯っているのが見え、幻想的な眺めだった。

「きれい……」

 クアナは、バルコニーの石造りの手すり壁に手を当てて、街の灯りを見ていた。

「ミングルの女王が言ったことが、とても気になって、眠れずにいたんだ。女王陛下の言った『アヴァロン』とは、()()()()()()()()なんだ……」

「なに……?」

 これにはコールも、鳥肌が立った。なぜ地底世界の女王が、数年前に亡くなったクアナの父親の名を知っているんだ……?

「私たちは、仕組まれて結ばれたのかな……」

「仕組まれて、結ばれただろう、どこからどう見ても……」

 なぜ、何のためにそうされたのかは明らかになっていないが、仕組まれたことだけは紛れもない事実だ。

「コールは、本当に私のことが好きなのか……?」

「何をいまさら……そんなことは、分かりきったことだろう?」

「でも、明らかに、ちぐはぐな気がしているんだ。不安で堪らなくなるんだよ。これは、本当なのかって。本当に、私は貴方と結婚してシノン公夫人になれるのか、何かの間違いではないのか」

「クアナ……!この指に、収まっている指環を見ればいい。俺の両親も、シエナ陛下も、きちんと認めてくれただろう?」

 シエナ陛下……?コールは自分が口にした言葉に、ふと思い出す。そう言えば、リオンの女王である彼女も何か、言っていたな……。不吉な予感がする……と?

 『奇妙な取り合わせ』と言ったゲートキーパーのワーム。ミングルの女王の嘲笑。絶対に結ばれるはずのない二人。不吉な夢……。

 だが、そんな二人を結び付けたのは、他ならぬ『稀代の賢君』オーギュスト二世だ。あの方が、ただの酔狂でこんな手の込んだことをするはずがない。

「皇帝陛下の為すことには、必ず何か意味があるはずだ」

 リオンの女王は、こうも言っていた。

 何があろうと貴方達が、お互いにお互いを慈しむ心さえ忘れなければ、きっと、乗り越えられることと思います──と。

「クアナ、不安になると言うのなら、俺は何度でも約束しよう」

 コールはクアナに向き合い、きっぱりと言った。

「何があっても俺は、クアナを守る。この先、()()()()()()だ。俺の婚約者はクアナ・リオン、お前だ。お前以外には考えられない」

 クアナは、驚いた顔をしてこちらを見た。

 コールはもう一度、確かめるようにクアナの小さな身体を抱き締めた。

 クアナの心音が心地好い。

 小さな小さな聖術士だ。まだ二十歳にもなっていない。こんなに小さな身体の、どこにあれほどの呪力が秘められているのか、分からないぐらいだ。

「……ありがとう、コール。貴方の愛に報いるために、私も、約束をさせてもらおうと思います」

 クアナの、魔を(はら)うような涼やかな声がコールに告げる。

「私は貴方の『足枷』になろうと思います。この先、何があったとしても、貴方の傍を離れず、貴方の扱うありとあらゆるすべての闇術に対する、対抗呪文を考案します。そして、それを書物にしたため、世界で初めての、闇術の研究書を作り上げます。最強の闇術士の、攻略本です。それを、私の生涯の仕事としましょう」

 コールは驚いて、自分を見上げる小さな聖女の、静かな光を宿した空色の眼差しを見返した。

「驚いたな……。お前は……そんなことを考えていたのか?」

 クアナは頷く。

「この世でただ一人、私にしか出来ないことでしょう?」

 クアナは優しく微笑んで、鈴を転がすように笑った。クアナの心地好い声が、コールの心に差した不安を祓っていく。

 コールは若干十八歳の少女の辿り着いた結論に舌を巻いていた。

 それこそが、クアナ・リオンが帝国最強の闇術士と、結ばれた理由かもしれない。


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