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彼女が帝国最強の闇術士と結ばれた理由  作者: 滝川朗
第3部───第四章:フリンはこの時、彼女にきっぱりと別れを告げてやるべきだったのだが……フリンが軽はずみに口にしたこの『口約束』は、残念ながら、叶わない約束となるのだった
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「さすがだね、元副隊長。形勢逆転だ。これならいけるかもしれない」

 オーランドは、俄然面白くなってきた、とでも言うように口角を上げて楽しそうに言った。

 ところが、果敢なゲートキーパーのワームは、自らが受ける痛みにも怯まず、さらに強力な攻撃をフリンに加えてきた。

 フリンの掲げる盾を破ろうと、牙を剥き出しにして食い付いてくる。

 フリンは必死で攻撃に耐え、ワームは同等の苦しみを受け続けながらも、まったく怯むことがない。

「さすがの相手だね……地底世界へのゲートキーパーの名は伊達じゃないみたいだ」

「副隊長。この作戦(オペレーション)が効果的と判断されるなら、私も、フリンのサポートに回っても?」

 キリエがオーランドに判断を仰ぐ。

「うん。いいよ、フリンに全振りしよう」

 オーランドの言葉を受けて、キリエが覚えたての水術を使う。

「〝本質の融解〟」

 差し出したキリエの右手から、蒼穹色のオーラが静かに流れ出し、ワームに纏わり付いて、その外殻を融かすように蝕んでいく。

 魔物の防御力にマイナスの修整を与える妨害呪文だ。言うまでもなく、紺碧は妨害も得意とする術だ。

「マイナス修整か……。いいだろう、俺も、普段なら絶対にやらないことをやってやろうじゃないか」

 コールも面白がってキリエに乗っかる。

「〝闇のオーラの付与〟」

 コールの性格上、普段サポートに回ることはしないが、闇術は実は付与魔法も強い。フリンの纏うすべての術の効果が全体的に底上げされる。

「はははは……!闇術の付与魔法はさすがに、強力だね!」

 オーランドは思わず笑いが込み上げてきた。

 付与魔法に次ぐ付与魔法、こんな奇妙な闘いは見たことがない。たった一人の術士のために、攻撃役(アタッカー)としての能力も高いはずの仲間たちが、次々とサポートに回る。二十一歳の盾役フリンへの、パーティー全員からの信頼感のなせる技だった。

「これでもし、フリンかギランの呪力が尽きてこのコンボが機能を失くしたら、僕とコールとリッカで、ヤツを袋叩きにする以外にないね」

「それまでに、ヤツのタフネスはほとんど削られてることだろうよ」

 コールも愉快そうに言った。

「貴方たちったら……。この緊迫した状況で、ニヤニヤ愉しそうに笑っている隊長と副隊長も、十分気持ちが悪いですわよ……っ」

 リッカが咎めるように言った。

 キリエにより防御力を低下させられたワームは、コールの術により強化されたフリンの超強力なカウンターダメージをその身に曝され続け、一溜りもなかった。フリンの盾を破ろうと、必死に攻撃を仕掛けるが、攻撃をすればするほど、明らかにワームは弱ってきている。

「これで勝ったつもりか?人間の術士どもよ……!」

 ワームの怒りに満ちた怨嗟のような言葉が洞穴に低く響きわたる。

 ワームは巨大な身体を激しくのたうち回らせ始めた。

「道連れだ……忌々しい人間の術士ども……」

 立って居られない程の激震が、繰り返し繰り返し、洞窟内を襲う。

 七人の術士たちは、堪らず床に手を付いた。

「まずい……落盤を誘発させようとしているんだ……!」

 もはや挑発効果は意味を成していなかった。ワームは敵に攻撃するのではなく、人の背丈以上もある巨大な尾をのたうち回らせているだけだった。

 オーランドは必死に思考を働かせたが、こんな単純な攻撃を無効化させる術などは存在しないように思われた。

「みんな……っ!作戦変更だ。一斉放火するしかない!洞窟が崩落するより先に、一気に倒しきるんだ!」

 オーランドは激しい地震に耐えながら、叫ぶように言った。

 付与魔法を唱えていた三人も術を解き、攻撃に回る。

 風術の物理攻撃。焔術の雷撃。直接相手モンスターの生命力(ライフ)を削る闇術の呪文攻撃。六人の術士が一斉に攻撃に転じる。

 間に合うか……。

 全員が心の内で呟いた時。

 

「お待たせしました。みなさん」


 自身の聖なる呪力を使い、今までにない集中力で封印の術式を描いていたクアナがすっくと立ち上がり、ワームに身体を向ける。激しい揺れの中、一人別次元に存在するかのように、クアナの身体は静謐な光に包まれ、黄金色(こがねいろ)の髪が、生き物のようにきらきらとなびいている。

 のたうつワームをなだめようとするかのように、右手の平を向けて、クアナが告げる。

「〝(よこしま)なる存在の封印〟」

 純白の真骨頂は、魔を祓う力――つまり、魔物の封印だ。人間同士の闘いよりも、対魔物(モンスター)戦に置いて、その真価を発揮する。数ある聖術の中でも、邪悪なる者の封印は、クアナが最も得意とする術だった。特に相手が闇属性の魔物ならば一溜りもない。闇の眷属である、褐色の呪力を持つワームも、例外では無かった。

「これが、清浄なる天使の呪力か……見事なり」

 純白の光に包まれたゲートキーパーのワームは、むしろ清々しささえ感じさせる口調で言った。


「及第だ。門を開放しよう。女王陛下がお待ちである」


 その言葉を残し、ゲートキーパーは存在を封印された。

 辺りはしんと静まり返り、ランサー城にあるような、きらきらと呪力の気配が揺蕩(たゆた)うゲートが現れた。

 七人がお互いに顔を見合わせ、コールは一つ頷くと、先んじてゲートへ足を踏み入れた。


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