遂に立ち上がる、恋愛フラグ⑤
あのあと、私とソルは怒りを沈める方法というものを研究して実践した。
孤児院で働くシスターに話を聞いたり、騎士団で行う瞑想を取り入れてみたり。
努力の甲斐あって、今のソルがある。
とは言っても、まだまだキレそうな時には拳は握り締めてるんですけどねー。
が、その拳はぶるぶると震えるだけで決して他人の顔面をクリーンヒットするような事は無かった。
いつだったか、孤児だという理由で馬鹿にされ、行商に本を売って貰えなかった時には、
「・・・・・今俺に話し掛けないでくれる?我慢してるから・・・!」
と怒りを滲ませて虚空を睨み付けていたけれど、結局、手は出さなかったし。
良い子のソルの努力は無駄に出来ないので、ソルをぎゅーしてその場を退散してから、行商にはネッチャリと油のついたコインを「落としましたよ。」と渡しておいた。
さぞやポケットがベタベタになるだろう。ざまあ。
そんなこんなで少し大人になったソルが、今日という日を迎えた訳である。
これがはしゃがないでいらりょうか。
見よ!この尊い笑顔を!!!!!!!!!!!!
ウィルの視線は凍り付いていたけれど、夜なべに夜なべを重ねて応援グッズを作った甲斐があるってもんよ!!!!
受付を済ませたソルがぱっと目を輝かせて振り返る。
「じゃあ、行ってくるから!」
「うん!めっちゃくちゃ応援してる!格好良いところ見せてね!」
ソルが手を振って走っていく。
・・・・・立てばサファイア座ればガーネット、走る姿はダイアモンドってところか。
好き。
好きが爆発している。
急に振り返ったソルが私に叫んだ。
「勝つよ!」
それから真剣な顔になって会場へと真っ直ぐ走っていく小さな背中に、私はうちわを握り締めて膝から崩れ落ちた。
「推しが・・・・・・尊いぃぃぃ・・・!!!!!」
「またそれですか。」
ひゃっとして立ち上がると、制服姿のウィルが凍てつく視線で私を見下ろしていた。
現代日本文化を知らないウィルは、この「推しが尊い」を心臓発作の合図かなにかだと思っている。
「そんなところで憐れな毛虫みたいに地面に這いつくばって無いで、発作ならさっさとご自宅で横になっていて下さい。」
「それ心配してる?」
してますよ、と吐き捨てると、ウィルはふぅっと溜め息を吐いた。
「寧ろ、私はマリアお嬢様の頭の心配しかしていません。」
「・・・・・・・この数年で局地的に口が悪くなったよね、ウィル・・・。」
それに、と、私はウィルの相変わらず綺麗な顔を覗き込む。
「もうお嬢様じゃないってば。ウィルは騎士団で功績をいっぱい作って、子爵位に復籍したのでしょう?私は単なる男爵家の次女よ。むしろ私の方がリウス子爵ウィリディス様ってお呼びしなきゃ。」
私としては茶目っ気たっぷりに笑ってみせたのに、ウィルは心底嫌そうに目を伏せた。
「子爵位で私と貴女の関係は変わりません。」
きっぱりと言われて思わずドキっとする。
けど、そろそろ線引きをしなきゃいけない頃だなーとは思っているのだ。
この二年の間に起きた幾つかの内乱で、ウィルは随分と功績を挙げた。
その事で、平民の身分だったウィルは、王命によってマリス家への復籍を命じられ、再興したマリス家当主に任ぜられたのだ。




