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遂に立ち上がる、恋愛フラグ④

それから、騒動で遅くなった夕食の片付けをして、ウィルが迎えに来るのを待っていたらこんな時間になってしまったのだけれど。


私の傍にソルがやって来た。


「・・・・・寝ないの?」


「うん。」


ソルは蝋燭も持たずに厨房のすみに立っている。

私はそっとソルに近付くと、指を延ばしてソルの頬に触れた。


「ライナス達にお礼を言った方がいいよ。一生懸命走って私のところに来てくれたんだから。マルコもいたよ。思ったより良い奴だったね。」


「ふうん・・・・・。」


ソルはじっと虚空を見詰めたまま、私の方を見ようとしなかった。


部屋の隅の暗闇を吸い込んだように、ソルの瞳が黒く翳っていた。


「なんで。」

「うん?なあに?」


ソルが微かに口を動かした。相変わらず瞳は虚空を見詰めたまま。


「なんであんなに必死に謝ったの。」


ソルは目を合わせない。指先はぎゅっと握り締められていた。


「衛兵の詰め所でのこと?ああ、それなら、だってそうしないとソルが捕まっちゃうかと思ったからー・・・。」

「捕まっても仕方ないでしょ!」


ソルが声をあらげた。


「人刺せば捕まるのなんて当たり前じゃん!」


「うん、でも私は、ソルと離れたくない。」


静かに落ちた私の言葉に、ソルがようやく顔を上げた。


「私は、誰かを傷付けてソルに捕まって欲しくないし、ソルが傷付くのも絶対に嫌。私はソルが大好きだから。ソルが悪者になるのも、ましてやソルと離れるなんて絶対に嫌なの。だからソルには誰も傷付けて欲しくない。」




楽しい日々、優しい日々。


キラキラに輝くソルの事を一番近くで見れて、とても楽しい。とても幸せ。


一つ一つ出来ることを増やすソルの成長が、私の何よりの喜びになった。

戦争で当たり前の生活を失ったソルが、ここで一から努力する姿が尊くて、挫けたり失敗してもまた前を向いて努力をして、そして最後には絶対に成功させる姿が、とても格好良くて。


そんなソルを励まして、応援して。


そんなキラキラした日々は、ソルが私にくれたものだ。


自信満々で不敵に笑う顔も、おずおずと私に触れる小さくて柔らかい掌も、年相応に不安げに私を見上げる瞳も。


本当はすぐに解った。

ソルは不遜なんじゃない。無愛想なんじゃない。

そうしないと怖いんだ。


この聡い子は、自分を愛して庇護してくれる存在はどこにもいないと気付いていた。


戦争で失ったのか、生き別れたのか、初めからいないのか。


どうにせよ、「自分一人で生きていく」という事が、染み付いたような顔をしていた。


それでいて、ソルは絶対に絶望したりしないのだ。


いつだって前を向いている。


穿っていようが皮肉っていようが、いじけたりしない。


孤高だった。


それが切なくて健気で、気付いてからはミーハーな気持ちは確かな愛情に変わった。



「まあ、これは私の我が儘だから、守るのも守らないのもソルの自由だけどね。」


けと、届いてほしいと思う。

君に貰った優しく輝く世界が、いつか君の闇を払って、遠く、どこまでも広がる美しい世界を君に生きてほしい。


そんな世界に瞳を輝かせているソルが見たい。




「私にとってはソルが世界で一番の愛しの英雄(ヒーロー)だから!」


覗き込んだ宝石のような瞳に、幸せそうに目を細める私が映っていた。


と、ソルの瞳が揺れる。

涙は出なかったけれど、ソルはさっと俯いてわざと不機嫌な声を作った。


「俺別に英雄とかじゃないよ?他の奴の事なんて知らないし、守ってやってないし。」


「ソルってば相変わらず自分に厳しいよねえ。今日だって、やり過ぎではあったけど、食堂のジョージさん親子はソルの事を凄く庇ってくれてたよ。お礼言ってた、ソルが助けてくれたって。」



詰所で衛兵に事の顛末を話すとき、ジョージさんも娘のミアちゃんも、傭兵達がいかに傍若無人な態度だったか、ソルがいかに勇敢に立ち向かったかを必死に説明してくれた。


多少誇張ぎみではあったけど、まあでも、それはあの親子の感謝の気持ちからの行動だし。



あの場に立ち会った街の人達の中には、自分で詰所に行ってソルの無罪を証言してくれた人もいた。



「だから、ソルが何と言おうと、ソルは私の英雄なの。英雄で、最推しだよ。ソルが身を(てい)してあいつらに立ち向かってくれたの、私知ってるからさ。」


俯いたままのソルの頭をぎゅっと抱きしめた。


石鹸の香りのする髪にぐりぐりと頬擦りをして、私はソルを抱き上げる。


「やーめーろぉ!」


「えー良いじゃんソルが可愛くて仕方ないんだもんー!」




照れるソルを抱きしめて二人で笑った夜以来、ソルが無為に暴力を振るうことはぴったりと無くなった。


あの時、確かにソルは少しだけ大人になったのだった。




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