遂に立ち上がる、恋愛フラグ②
うんうんと感慨に耽っていた私の背中を、ソルがぺしっと叩く。
「早くしないと前の方の席が埋まっちゃうでしょー!」
ほらほらほら!と、少しだけ甘えるように私を押すソルの瞳は、今日も宝石のようにきらきらと輝いている。
私はそれを目を細めて見てから、背中に手を回してソルを捕まえた。
「うりゃりゃりゃりゃ!」
「やめろ!早く歩け!早くっ!」
ソルは引っ付かれるまま背中を押す力を込める。
可愛くて仕方がない。
こんなにも今日の日を待ってたんだなあ。
「ソル、武術大会楽しみ?」
「当たり前。」
ソルは私の手から抜け出して走り出す。
私の数歩前でくるっと振り返ると、きらきらと笑う。
「十二歳まで凄い長かったけど、ようやく参加出来るし。」
「ねえ、もし優勝したら、ソルは何を貰うの?」
武術大会は二年に1度開催される。この国の有名な祭りの一つだ。
遥か昔の大国の公女だったとされる火の乙女、ウィクトリア様は、乙女でありながらも勇猛果敢な方であったらしく、その武功はこの国にも幾つか残っている。
この地で遥か昔、ウィクトリア様が羽のある金獅子を従えて魔族を討ち取ったという伝説に準えて、この国では金の細工を施した剣を携えて戦いの舞を奉納してきた。
それがいつの時代からか、当代の最も強い者を決める武術大会に変わったんだとか。
優勝者には火の乙女の加護があるとされ、国王からも褒賞として金の剣が下賜され、更に望んだものが一つだけ貰える。
とは言っても例えば「賞金」とか「宝石」とか、常識の範囲内っていう暗黙のルールがあるのだけれど。
二年前に聖エステル孤児院に引き取られた後、ソルにもこの武術大会の事を教えたことがあった。
興味を示したソルを連れて、前回大会を観に行ったとき。
その時にはソルはまだ十歳くらいで、大会参加条件の十二歳にはなっていなかった。
なので、大声援の中で剣を交える騎士達を、キラキラした瞳でじっと見つめるだけだったのだ。
本当はきっと、あの時から出たくて出たくてしょうがなかったんだろうなあ。
この武術大会はお祭りの側面が強いので、王都の騎士達だけじゃなく、傭兵や、出ようと思えば市民だって出られる。
時々そういう正体の解らない人が勝ち上がったりして盛り上がるのも、このお祭りの醍醐味だ。
なので密かに、私達街の住人はソルの活躍を期待してたりしたわけで。
街の子供達や孤児院の皆を筆頭に、今日は結構な数の応援団が駆け付ける予定になっている。
子供ながらに、もしかしたらもしかするかも?!みたいな期待をしてしまうのがソルなのだ。
私も前世の知識を総動員して、推しの為に今日という日に備えてきた。
「出でよ!!!推しに染まりし聖祭具よ!!!」
「ねえそれ本当に恥ずかしいから止めない?」
・・・・ソルの絵姿うちわ(描いた)、ライブタオル(刺繍した)、ぬいぐるみ(作った)、イメージアクセサリー(オーダーメイド。提供、姉)。
「イメージアクセサリーとメイクは勿論ゴールドと琥珀で統一!!!!!」
これぞ推しごと!!!!!!!
っていうかこれはもう推しなんて言葉では生ぬるい!
「今日から私はソル担で生かせて貰います!!!!!!」
「・・・孤児院の他の奴らの担当は辞めるの?」
ソルが怪訝な顔で何か言ってるけれども、今はそれどころではない。
この日のために量産したソルグッズを身に纏い、戦闘準備は万全だ。
どっからでもかかってこい!同坦よ!!!!
闘志に燃える私をじっと見つめると、
「まあ、楽しいなら良いけど。」
とソルが口元を緩めた。
「どうでも良いけど、今日はやり過ぎたら失格になっちゃうから!試合の前に絶対「ぼこぼこにしないよ!」って言って!」
ソルが真剣な顔で私を見上げる。
成長したなあ。昔だったら、「別に失格でもいい。」とか言っただろうに・・・・。
お姉さんは本当に嬉しいですぅ!!!!!!
「わかった!絶対ね!試合の前には言うから!約束する!」
ソルはぱっと笑うと、手を振って会場入り口横の受付へと走っていった。
この二年間で、ソルは本当に大人になった。
「人を殴らない方法を教えてほしい。」
ソルが私と二人きりの時に、そう打ち明けたのはどのくらい前だっただろう。




