遂に立ち上がる、恋愛フラグ①
あれから二年。
私はあっという間に19歳になった。
もう、こちらの世界でも完璧な喪女である。
父は血眼になって私のお相手を探しているらしいが、ハッキリ言ってこの世界、女性なんて若ければ若いほど良いというのが常識である。
前世の常識からすると、ナンセンス!女性蔑視!と女権論者の皆さまにお叱りを頂きそうなものだけれど、女性の社会進出なんて夢のまた夢のこっちの世界では、みーんな当たり前に16歳くらいで子供を産んで家庭に入るのである。
貴族なんてもっと早い。
十九歳なんて、とうが立ったオバサン扱いだ。
まあ私は別に良いのだけれど。
なんせ、このお方がそばにいるからね。
「マリア!早く!」
私は声のする方へと振り返った。
ほんの少しだけ伸びた身長。二年前はまだふっくらと子供らしかった頬が、少しだけすっきりとして、手足がすっと長くなった。
すっきりとした顔立ち。少しだけシャープになった分、一層際立つ、大きな奥二重の目。その、美しい、宝石の瞳。
「今日も顔面が絶好調だね!ソル!」
「はいはい。」
少しだけ伸ばした髪はさらさらと音がしそうなほど。
太陽の光りが反射して、きらきらと光っている。
「相変わらず生きた宝石みたいだね!ソル!」
「はいはい。」
もううっとりしてしまう。元々美少年だったけれど、こんなに美少年に育つとは・・・!
語彙を破壊する美しさに、私は感涙する。
推しててよかった・・・本当に良かった!!!!
「マリア!早く!遅刻する!」
ソルの声にはっと我に返る。
そうだった。特別な日なんだった。
今日はソルのデビュー戦だ!
「ごめんごめん!ちょっとあまりの推しの尊さに意識が千里の彼方へぶっ飛ばされてて。」
「あっそ。」
初対面の頃の猫はどこへやら。
私はソルにだけはもう前世と変わりない態度で接していた。
お貴族のお嬢様は、やっぱり水が合わなかったんだなあと痛感する。
根っから庶民の私は、こうしてソルと話している時が一番楽で、一番楽しい。
ソルの方はどうだったのか解らないけれど、いつからか私のことをマリア、と呼び捨てにするようになった。
本来なら懲罰ものなんだろうけど、いつだったかやんわりと注意をした私に、
「マリアって呼ぶの、マリア様って呼ぶより親しい感じがすると思ったのに?」
と言われてしまって、もうね、何でも良いよ好きに呼びな!となってしまった。
だってげぼ可愛かったんだもん。天使には抗えないよ。
が、割と人目を気にしないソルは、街中やウィルの前でも平気で私をマリアと呼ぶので、なかなかに冷や汗ものだった。
ウィルなんかは半ば本気で説教しようとしていたに違いない。
私がまあまあと割って入る度に、物凄く不機嫌な顔で睨んでいたからめっちゃ怖かった。
なんか、ウィルとソルは、仲が悪いんだよね。うん。
ソルはもう、街中では一目置かれる存在になっている。
破落戸や窃盗犯を捕まえて警備隊に引き渡したのだって、二度や三度ではない。
子供達のリーダーだし、大人でも、なにか困ったことがあるとソルに頼ってくることは多い。
特に言語に優れたソルは、読み書きを完璧にマスターして、隣国の言葉ですら日常会話程度なら三ヶ国語は扱えるようになった。
もう神童と言っても過言ではないのでは?
迸るカリスマ性に、私の声援は飛びっぱなしだ。
が、そのカリスマ性が女子に発揮されることはなく、ソルは同世代の女の子達からは魔王のように恐れられている。
なんで?と聞くと、大体返ってくる答えは、
怖いから!!!!!
喧嘩も強くて、頭も良い、けどいつも不機嫌そうだし、お喋りしないし、なに考えてるのか全然解んない!
らしい。
私からすると、不機嫌なのはデフォで、あれはああいう顔なのだ。
ソルの感情は極端に顔に出ない。
にこにこ爽やかな感じじゃないのは確かだろうけど、軟派な感じがしなくて良いじゃんと私なんかは思う。
それに、お喋りではないが、ソルは基本的に人の話をよく聞いてくれる。
ちゃんと相づちも打つし、質問や相談をすればきちんと答えてくれる。
基本優しいのだと思う。
その優しさは男の子達には知れ渡っているので、大人しい男の子達ほどソルに憧れるものも多く、ほぼガキ大将と化している。
だけどソルはマイペースで一人を好む性格なので、結局は私と一緒にいることが多い。
そこがまた可愛いと思ってしまうのだから、私の病は相当業が深い。
やっぱり男はちゃらちゃらせずに、寡黙でクールで「・・・・・」多めなのに「喋りすぎるな、弱く見えるぞ?」を地で行く感じじゃなきゃね!
と中二爆発な嗜好の私としては、相変わらずこの国の男性とも美意識とも相容れない。
その絵姿が雑貨屋で婦女子に飛ぶように売れているというこの国の第六王子様ですら、
「?????????」
と首を傾げて見入ってしまうくらいだ。
ド派手でファンシーなローズピンク色の巻き毛に、晴れ渡った空のようなゼニスブルーの瞳。
これだけでも、おお!ファンタジー!と言いたくなるけれど、更に第六王子は王子様だけあって、腰まではありそうなふわふわのロングヘアーなのだ!
もう、少女漫画の異世界ものでしか見ないようなすっげーキラキラな姿だった。
「派手派手だあ・・・・・・・・・。」
姉に第六王子の絵姿を手渡された時に私の口から漏れた言葉も強ち間違ってはいないと思う。
不遜とか不敬とかパクりとかじゃあ断じてない。
この世界では、派手派手こそ勝者!キラキラでギランギランこそが美しいのである。
孔雀か。
・・・・・・・まあ若干不敬気味ではあるけれども、好みが合わないもんは合わないのだ。
この世界の常識では、髪色や瞳の色は派手な原色であったり、可愛いパステルカラーであったりする方が素晴らしいとされていて、位が高い。
なので、私の愛する黒髪や私の父親のような焦げ茶色の髪は品が無いとされている。
王都ではまだましだ。
表だって差別されるようなことは無いけれど、それでも子供の結婚相手や恋人が黒や茶や橙なんかの土色の髪や瞳だと、思い止まるように諭す親は少なくないと思う。
辺境や他所の国や地域ではもっと顕著に謂れの無い差別を受けると聞く。
結婚や就職だけじゃなく、特定の色は害悪として人狩りに合っていた歴史もあったそうだ。
現代日本万歳。
そんな野蛮な事するような奴らこそ狩られちまえ!!!!!
肌の色での差別も馬鹿馬鹿しいと習ってきた私はそんな常識を受け入れるのは到底難しいけれど、この世界の人々がこうなのには一応の訳があるらしい。
実際のところどうなのかは証明されていないのだけれど、髪や瞳の色は、創造神の加護の現れだとされているのだ。
髪の輝きは、神の輝きってなもんで、キラキラと神々しければ神々しい程、加護も強いとされている。
それも雑じり気なしの単色であるほうが加護にも雑味が無いとされているのだから、複雑に輝く色よりも、赤!とか青!とか紫!とか、そういう派手な色が好まれるのはその為だ。
同じ混じり気だとしても、ウィルのような白銀にフロスティブルーのような似た色合いが重なりあっているものは佳しとされている。
これは、同じ性質の加護が鎖のように編み上げられていると捉えられているからで、そこから解るようにこの世界の美的感覚や常識は難しいし恐ろしいほど厳格だ。
あれはいい、これは駄目というのが、物凄く細かく決まっている。
何という面倒くさい世界・・・・!
お前は姑か!と突っ込みたくなるけれど、これは世の中の善いお姑さんが悲しむだろうから止めておく。
そんななので、ソルの美しい柿色の髪も琥珀の瞳も、この世界では加護は少なく不吉で、雑味が多くて程度の低い、品の悪いものだとされている。
猛烈に腸が煮えくり返りそうだけれど、私は気にしない。
だって、誰が何といおうとソルは綺麗なのだ。
ところ変われば常識が違う、文化が違うのは現代の常識。
それならば、現代から来た私は現代の価値観で言わせて貰う。
ソルは綺麗だし、ソルは尊い。
幼いあの頃、私が誉める度にソルが照れていた理由が今なら良く解る。
ソルはきっと、今まで誰にも、外見を誉められた事なんて無かったんだろう。
紅茶に入れた蜂蜜のようにキラキラとゆらゆらと煌めく瞳も、覗き込まれたのは、初めてだったのだ。
少し切ない気持ちはいつまでもこの胸に残っている。
けど、今のソルはきっと、そんな事気にしない。
私の溢れ出る、いや暴れ出る愛情を目一杯真正面から受け止めてくれているのだから。




