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小さな約束

皆様。

目の前に和氏之璧(かしのへき)とも呼べる至高の宝石が手付かずのままで存在していたら、貴女はどうするだろうか。

取りあえずシルクでくるんで、大切に大切に保管するのではないだろうか。



おいそれと話し掛けられないレベルの美貌の少年を前に、私はハッキリ言って不審者だった。



「・・・・・・暑い。」


「だだだ駄目だよそれ脱いじゃったら!もう本当に即効人買いに拐われちゃうから!人買いどころか貴族も富豪も秒だからね!瞬きの間に拐かされちゃうからね!!!大人は怖いからね?!」


ソルが着ていた、ぼろ布状態のシャツを着替えさせる事が出来ず、悩んだ末私は自分のワンピースのそでの部分を取っ払って、簡易のストールにしてぐるぐるとソルに巻き付けた。



現代日本人(元)の私にはあまり理解できないのだけれど、我が国では伝統として、貴族の婦女子のドレスの裾は、長ければ長いほど、そして美しく刺繍され飾られれば飾られるほど良いとされている。


それは普段着のワンピースから正装のドレスにまで及んでいて、更にはこの「お袖様」、貴族にしか許されていないのである。



いわば貴族女性の魂のようなもの。



勿論年頃の貴族の子女ならば、腕とお金によりをかけて、自分の袖をより美しく飾り立てる。


その上、この袖は取り外しが可能なのだ。


なので、なのかは知らないけれど、我が国では、この「お袖様」を愛する騎士に捧げるというトンデモ伝統が今も根強く残っている。



出征する前や、大事な試合の前に、求愛の印として袖を渡す。


受け取った騎士は、それを兜や槍や剣に付けて戦う・・・・・。



うちの父親も若かりし頃には、それはそれは沢山の袖を捧げられたそうだけれど・・・・え?欲しい?本当に欲しいのそんなもん。本当に?大事な戦いの前に?くっそ邪魔じゃない?袖。長いよ袖?


と怪訝な顔をして袖を摘まむ私を見て、顔を覆っていた。



懐かしい思い出に、思わず目を瞑る。



・・・・・あの頃の私!ごめん!袖必要!とんでもなく必要!長くてOK!全然問題なし!むしろ長ければ長いほど良いです、この子をくるむためならば!!!!!



あの後、私に言われた通りにナイフを用意した修道士は、姉が用意してくれた金糸の刺繍の入った美しい袖を、私が勢いよく引き裂いたところで腰を抜かした。


ぱくぱくと口を開けて喘ぐ修道士と、ぽかんとして私を見つめるソル。


私はてきぱきと袖だったものをソルに巻き付けた。


「さ、帰りましょ。」



そう言ってソルの瞳を覗くと、真っ白い頬が少しだけ赤くなって、何だか年相応の子供みたいでとても可愛かった。






のだけれども。




金糸と真珠の飾りであしらわれた美少年の破壊力は凄まじく・・・・。



息が吸えない。



同じ空気を吸うことすら烏滸がましいこの感覚!


同じ馬車でごめんなさい!

同じ空間に生きててごめんなさい!!!


・・・・・・せめてもの贖罪の気持ちの現れにと、出来るだけソルの視界から外れて大人しくリアタイしておこう。


体を細めて広い馬車の際々に座ってみる。



「ねえ。」


呼ばれて顔をあげると、絹の波に溺れるソルが言った。



「俺ってどこに連れていかれるの。」


絶賛顔が良い。・・じゃなくて!!!


私は正気を保つため思い切り内腿を叩くと、何やら吃驚して目を見開くソルに向き直した。



「えっと、この馬車はね、聖エステル孤児院に向かってるの。聖エステルは知ってる?」


「・・・知らない。」



ソルはつんとそっぽを向く。


へえ?知らないのかー。

珍しいな。この国では創造神と同じくらい有名な伝説だと思ってたけど。



私はいつも孤児院の子供達にするように目線を合わせると、両手を組んで微笑ってみせる。


「聖エステルはね、この世界を創られた創造神の愛する、七人の女神のうちの一人なの。ピスキウム様ともいって、想像力と、夢や理想を追い求める力を下さるのよ。」


ピスキウム様の守護される方位にあたる王都では、至る所で星の乙女の像を見ることが出来る。


中でも縁があるとされる場所には、古代語で星を意味する「エステル」の名前が冠されているのだ。



ピスキウム様は、我が国の初代国王の王妃であり、ニ百前に我が国を襲った未曾有の厄災の際に、不思議な力を使って他の乙女達と共にこの大陸の全ての人民を護ったとされる、伝説の聖女でもある。



「だからね、聖エステルにお祈りをすると、強く想像した事を叶えてくれるの。お金を稼ぐ自分とか、頭がよくなっている自分とか、幸せに暮らしている自分とか!」


勿論、その為の努力を空の星から見てらっしゃるけどね!

私がそう笑うと、ソルは、


「ふーん。」


と全然興味無さそうにそっぽを向いてしまった。


・・・・うーん。孤児院の子達なら、きらきらの瞳で食い付いてくれるのに。



「ま、まあ、でも、そんな感じでうちの孤児院には聖エステルの加護があるから!見た目はちょっと古いけど、安心して過ごしていいからね!」


「売られるんじゃないの、俺。」


静かにソルが言い放った。



「売らないよ!?そして私も買いません!幾ら何でも、王都で人身売買なんて、起こらないから!」


なんて事をなんてテンションで言うんだ!この子は!

慌てて否定するも、ソルはあっけらかんと言い放つ。


「さっき言ってたじゃん。大人は怖いって。」


ソルは視線を逸らして言った。


もしかして、怖がらせちゃってた?

私は内心大焦りで手を降る。


「あ、あれはちょっと、君が本当に美しいから、ちょっと自覚を持って欲しくてつい怖いこと言っちゃって!ごめんね!怖がらせちゃって、本当にごめんなさい!」


深く頭を下げる私を見て、ソルはまたぽかんとした顔になる。


さっきも思ったけど、呆けた顔は子供らしくて本当に愛らしい・・・。


いや、そんな事を思ってる場合じゃない!

いたいけな少年の心に傷を作ってしまった!!!



「・・・・本当にごめんなさい。貴女は家族と家を喪ったというのに。善くない冗談だった。反省してるわ。でも、聖エステル孤児院は本当に安全だし、暖かくて居心地の良い場所よ。それにこれから先、万が一貴方に危険が迫った時は、必ず私が貴方を助けてみせる。」


ね?と見つめ返すと、ソルはちらりと視線を戻した。


窓の向こうから射し込む陽光がソルの横顔を照らして、蜂蜜色の瞳が、溶け出しそうな程にきらきらと光っている。


ソルはまた私から視線を外すと、退屈そうに眉を寄せて小さく頷いた。


が、私は見てしまった。顔を背ける前の一瞬、ソルの頬が赤く染まっていたことを。




かかかか可愛すぎるげぼ可愛くて心優しすぎる!!!!!!


今季の人気投票のためなら・・・・本誌100冊は買ってもいい・・・・・。


「推せる・・・・・・・・。」



頬を伝う涙を拭いながら、逆の手でソルの髪を撫でる。



泥と血がこびりついて固まっていた髪も、あのくそ修道士に用意させたお湯で根気よく洗い落とすと、随分と綺麗になった。



金にも、赤にも琥珀にも煌めくのような艶々の柿色の髪は、柔らかくて真っ直ぐで、上等の絹糸のよう。


こんなにも神に愛でられた容姿してていいんかこの子は!


というか私が愛でる!



「ねえ。あれ。」



と、ソルが窓の外を指差した。小さな指の向こうは色とりどりの花で溢れ返っている。



「ああ!フラワードレスね!この国で一番大きなお祭りよ!」


様々な花で飾られたパン屋の軒先。

その隣のブティックもお店の看板と同じ色味で統一された花ばなで飾られている。


「街中を花で着飾るからフラワードレス。もうすぐ、花の乙女のお祭りがあるの。花の乙女も星の乙女と同じく、創造神に愛された、我が(アウルム)の聖人の一人よ。花の乙女の季節にはほら、ああやって、国中を花で飾るの。そしてお祭りの間中、国民はみんな街角の花を好きに摘んで家族や恋人に送るのよ。あとは、好きな人に愛の告白をしたりとかね。」



花の乙女であるフィーリア様は、愛と豊穣を司っている。


まあ平たく言うと、超強力な縁結びの神様ってところだ。


この祭りの間に結ばれた恋人たちは、フィーリア様の祝福により、「どんな困難があっても再び巡り合う」というギフトが与えられると言われている。


なので、ちょっと無理めな相手との恋愛に苦しんでいる貴族の方や、遠方に旅立つ騎士様を想う婦女子に大人気のお祭りなのだ。


・・・・・まあ生まれてこの方、私には一度も縁の無かった祭りなのだけれど。



私は、ぼんやりと花の洪水を見つめているソルに向かって微笑んだ。


「お祭りが始まったら、一緒に行かない?」


ソルはちらりとこっちを見ると、また少し赤くなって、小さく、


「・・・考えとく。」


と呟いた。

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