推しとの出会いは突然に。
「ここでいいわ!ありがとう!」
華やかな露店で賑わう大通りには大勢の人が行き交っている。
通りのシンボルである大きな噴水の回りには沢山のカップルが腰掛けて、お昼から愛を囁きあっていた。
皆様ヨウゴザイマシタワネー。
すっと能面のように無表情になった私をちらりと見たウィルに、帰りの馬車は要らないことを伝えて帰って貰う。
別に自棄を起こした訳ではなくて、帰りは修道院から馬車が出るのだそうだ。
この度の隣国との戦争で、国境領は甚大な被害を受けたという。
隣国への侵略遠征は失敗し、我が国は国境領まで撤退を余儀無くされた。
が、隣国の手は緩まず、逃げ延びた国境領での市街防衛戦を展開することになった。
戦神と名高い国境伯と、そのお抱えの国境兵団を持ってして、何とか隣国の軍団を退けたものの、サングィスの市街は壊滅状態。
特に城塞の外の村は酷い有り様で、生き残った者も国を捨てて他国へ亡命する者の方が多かったと聞く。
・・・・・道中荷物になってしまう子供達を捨てて。
そんなこんなで、またもや侵略戦争でやらかした我が国としては、捨てられた戦争孤児達を手厚く保護しているというポーズが必要なのだ。
その為なら、王家の紋章の入った馬車に孤児達を載せて国中を走り回ることなど、雑作もないのだろう。
胸糞悪いことを考えながら門を通った私は、ケッ!とばかりに、修道院の扉に付いたノッカーをゴンゴンと叩く。
扉も、その扉に付いたノッカーも、細かい細工が施してある立派なものだった。
金かかってそう。
もう一発派手に叩き付けてやろうかとノッカーを掴んだところで扉が開いた。
「星の孤児院の使いか?」
横柄な物言いにいかにも億劫そうな態度。
妙に肌艶が良いのが絶妙に腹が立つ。
対応に出た五十絡みの修道士は、私を振り返る事もなくさっさと歩き出した。
きっと世の中には善き修道士も居るんだろう・・・・・でもお前には何か創造神のバチが当たれ。
私の不穏な願いを知ってか知らずか、案内人の男は部屋の前まで来ると、さっさとしろとばかりに私を中へ突き飛ばした。
我が国の王家と教会が腐りきってるのは知ってたけど、末端までこんななんて。
・・・・あとで絶対に修道院に腐った魚の頭でも投げ入れてやるからな。
脳内で中指を立てる私は、それを一切顔に出さずに淑女の鑑のように優雅な足取りで部屋に足を踏み入れた。
小さな部屋の中には、三十人近い子供達が蹲っている。
皆ぼろぼろの身なりで、誰も彼もが不安げにこちらを窺っていた。
「呼ばれた者は前に出ろ。十三、以上だ。」
・・・・囚人番号じゃねえんだからよ!と密かに拳を握った私の前に、うつむき加減の子供がやって来た。
可哀想に。恐ろしい思いをし、家族を喪い、そして見知らぬ土地で怯えているのだろう。
私は、出来るだけ明るい声で話し出した。
「はじめまして!私は聖エステル孤児院から来ました、マリア ブランジェと言いま・・・・・。」
そこまで言って、私の目は顔をあげた子供に釘付けになった。
さらさらと音を立てそうなほど細く真っ直ぐな琥珀色の髪。
抜けるように白い、透明感溢れる美しい肌。
そして、儚い美しさの中で、釣り気味の大きな一重瞼と、一際異彩を放つ、光の加減でエメラルド色にもルビー色にも金色に輝くオパールのような瞳。
美しい。
美しすぎる・・・・・・・・!
次元を越えた、美少年・・・・・・・・・・・・!
「・・・・物語の絵姿がそのまま飛び出してきたような、美しい容姿ですね。」
「・・・・・・・・は?」
いいいいいかんいかん!!!!!
前世と現世の時空を狂わす程の美形に思わず称賛が口を付いて出てしまったけれども!
今の私は、「孤児院手伝い」(ボランティア)なのだ!
こんな不審者かチャラい貴族の子息みたいな事をしている場合じゃない!!!
私は必死に笑顔を作って膝を付いた。
「今日から貴方を聖エステル孤児院の仲間として歓迎します。えっと、お名前は?」
「・・・・・・・・・・・。」
美少年は、眉を寄せて物凄く不機嫌そうに私を見詰めている。
ソリャソウダヨネー!
笑顔を張り付け、内心冷や汗をだらだら流した私を知ってか知らずか、美少年が小さく口を開いた。
「・・・・・・・・ソル。」
「・・・・・・・・・・声まで美しい!!」
え!!!まじで推せる!!!!!!
全力で推せるんですけど?!これ!!!!
これが、人生二週目の元二次元オタクの私と、私の美しすぎる最愛の推し、ソルとの出会いだった。




