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遂に立ち上がる、恋愛フラグ⑥

私は、前マリス子爵の亡き後、マリス家は断絶したのだと思っていたのだけれど、実際は幼いウィルに代わって遠縁の人が爵位を継いでいたらしい。


その際にすったもんだがあり、いちゃもんをつけられて身分を剥奪されて、家を追い出されたウィルはうちで引き取られる事になったそうだ。


けれど、ウィルのここまでの活躍ぶりを国王も無視できなくなったらしく、そのくそ雑魚モブ男(これでも大分良く言ってるつもりなんだけど)は除籍され、晴れてマリス子爵家には正当かつ素晴らしい能力のある当主が戻ってきたというわけだ。


愛でたしめでたし、である。


けれど、マリス家へ戻ってからもウィルは時間を作っては度々手紙をくれた。



変わらない態度で接してくれるウィルの優しさが嬉しい反面、そこに甘えてはいけないなとも思ってしまう。


それじゃなくとも、すっかり大人になってしまって、ウィルはもう昔懐かしいお兄ちゃんには見えないのだ。



「むしろそんな風に見てたら、針の(むしろ)()巻きにされて、三途の川へ不法投棄されそうなのよねえ・・・・。」


あらダジャレぶっこいちゃったわー。でへへへへへへへ・・・へっ。


乾いた笑いしか出てこないくらい、現在の私は社交界に身を置く婦女子の目の敵にされている。



「先日の、パーティーの件ですか?」


そんな私の思いを感じ取ったのか、ウィルが眉を寄せて声を潜めた。

少しだけ悲しそうに見える。


私は慌てて明るく笑った。


「あれは別に気にしてないよ!というか、あれはウィルがどうのこうのじゃなくね、これまでほぼ全く社交界なんて無関係だった私が、急にパーティーなんて出ていったから、悪目立ちしちゃっただけなのよ!本当に!」


身から出た錆ーと笑ってみせると、ウィルの顔色がますます悪くなる。


・・・・・なんでだ。どうすりゃええねん。


「ですが、折角のドレスを台無しにしてしまいましたから。」


「えええ!でもそれはもう、お詫びにって、ウィルが新しいのを買ってくれたでしょ!?それに、素敵なイヤリングまでプレゼントしてくれたし!」


そう、パーティーの間中、私は全世界の女子の敵にでもなったような気分だった。



パーティーの招待状が来たけれど同伴者がいないというウィルに誘われた時、既に嫌な予感はしていたのだ。


そして、その勘はど真ん中で的中した。



じろじろ見られる分には良い。

私は動物園のパンダなんだチーターなんだエリマキトカゲなんだと言い聞かせて過ごせば良い。


ウィルがぴったりくっついてくれている間には、ご令嬢方も出せる手が無かったから。



けれど、ウィルが挨拶回りに行っている間にそれは起きた。


見事に足を掛けられよろめいた上、肩口からぐっしょりとワインを掛けられた。


やってくれたなこらと視線を送るよりも早く給仕を呼んだ彼女達は、わざとらしい困り顔でそれぞれにお気の毒ですわねえみたいな心にも無い事を言うと、給仕に、私を馬車へと連れていくように伝えた。


で、呼ばれた馬車に乗って私はさっさと送り返されたというわけだ。



まあぱっと聞き美談なのがまた巧妙かつ性格の悪い事だ。


嫌がらせに気付いてそのまま挨拶半ばで帰ってきたというウィルに聞いたところによると、彼女達は、「慣れないヒールで無様に転んでしまった私を先に帰らせてあげた」自分達の聖女っぷりをウィルにわざわざ告げに言ったらしい。



その狡猾さ足るやまさに女豹!と言いたいところだが、私に言わせればまだまだ二流。



実は、男爵家の次女である私が、元侯爵令嬢である母に厳しく育てられ、作法に刺繍はおろかダンスも完璧であるなんて事はうちに出入りする者であれば周知の事実だ。


「マリア(あのかた)はヒールでレイピアを振るえますよ。命がおありのようで良かったです。」


と吐き捨ててきたと告げたウィルはその美しい顔に、般若も泡吹いて逃げるほどの青筋を立てていた。


あの様子ではそれ意外にも多分、ウィルの性格上何かしら言ったんだろう。


あんなカワイイご令嬢方では卒倒しただろう。


ウィルは怒らせると本気で怖い。

本気で怖いうちの母が、


「ウィルと私は何だか気が合うわー。」


なんて言うんだから間違いない。


敵に回したら地獄の底でも先回りして待ち受けるタイプだ。恐ろしい。


ってな訳で、幾らなんでもそろそろ兄離れをしなくちゃなあと思っているのだけれど。



肝心のウィルが最近可笑しい。


今日も、手紙の返事の終わりの方にちょこっと、


『ソルの勇姿を観に行きます。楽しみです。』


と書いただけなのに、


『私もご一緒します。』


と丁寧なお返事が来た。

その上本当に大会会場まで一人で来たし。


その上・・・・。


「ねえ、それよりさ、その服って騎士団の制服だよね?まさか、ウィルも出るの?!」


「え?ああ、出ますよ。」


一瞬虚を吐かれたウィルだったけど、直ぐにしれっと言い返してきた。


「いいの?!お祭りだよ!?ウィルの大っ嫌いな、がやがやわいわいの、キャーキャーの!どうしたの!何の心境の変化!?」


今まで、誰に出ようと誘われても絶対に、


「見世物じゃないので。」


ってブリザード吹かしてたじゃん!!!!


うちの父親がっかりさせてたじゃん!


混乱する私を他所に、ウィルはしれっと受付の方へ歩いていく。



「王都聖鷲騎士団所属のウィリディス マリスだ。」


「え、あ、はい!マリス中隊長殿ですね!では、ここにサインをお願いします!応援してます!」


そりゃー、王都の有名人が参戦となればこうもなるか。


受付を済ませたウィルを見るなり、どこそこでどよめきや歓声が上がっている。


「よ、人気者!」


「止めてください。じゃあ、行ってきます。」


会釈をして行こうとするウィルの背中に、


「ウィル頑張れー。」


と声を掛ける。その瞬間、ウィルが振り返って大きく一歩踏み出した。




「ちゃんと見ててください。他のやつには負けませんから。」


耳元で聞こえたいつもとは違うその声に、ビクッと体が跳ねてしまう。


その反応を見て目を細めると、ウィルは楽しそうに手を振った。


「・・・・・・いいい行ってらっしゃい!」


私はと言うと、颯爽と行ってしまうその背中に、そう投げ付けるのか精一杯だった。

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