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喪女と私と結婚と。

艶々と輝く琥珀色の髪。

鋭く光放つ、蜂蜜色の宝石のような瞳。

その日私は、この世で最も美しい少年と出会った。


少年の名前は、ソル。


これが私、前世(享年二十二歳)と今世(十七歳)の喪女かつ二次元ヲタク女の、余りにも衝撃的かつ遅すぎる初恋のはじまりだった。







巷で見掛ける小説では主人公が、「異世界転生やった薔薇色ー!」とか言っているけれど、本当にそうなのかを脳みそフル回転でシワの端々まで栄養行き渡らせて良く考えてみて欲しい。


私に前世の記憶が甦ったのは五年前。たった五年前のあの瞬間まで、私は日本に暮らしていた。


取り分け陽キャな訳でも美人な訳でも外国に縁がある訳でもないく、普通の、いやどちらかと言うととてつもなく地味な、その辺に掃いて捨てる程いる普通の社会人だったのである。


ヨーロッパ系やラテン系やアフリカ系はもとより、同じアジア系ですら、外国の人を日常で見ることも関わることもない。


ましてや外国で生活をしたことがある訳もない。



なので、東京から遠く離れた地方都市で生まれ育った私としては、美的感覚は純日本基準で養ってきたのだ。


そんな純日本人の私が、赤とか青とか紫とか、そんな不可思議な髪や目の色の人達の中で、素敵!と思える人に会える訳がない。


結果、貧乏男爵家の娘、マリア ブランジェとして産まれてきた今世においても、私は「異世界転生いぇーい!」とはならず、ばりばりの喪女のままなのだった。


とは言え、私が恋が出来ないのを、全て異世界のせいにするのは異世界に対して気の毒な気もする。


何故なら、前世である日本でも、私を情熱的な恋の渦に叩き落とすような男の人と出会ったことはなかったからだ。




ー私は、喪女かつヲタク、だったのである。


それも少年誌を主戦場とした、バリバリ、ゴリゴリの二次元ヲタク。


忍者とか死神とか海賊とかハンターとか兵団とか、そういう、恋愛なんて全く興味ありませんといった殺伐とした世界で格好良く戦う殿方に、嗜好を全振りしてきたのである。


薄さ一ミリのイケメンに、とてつもない愛と情熱と時間とお金と心血を注いできた前世の私が言っている。


・・・・・・ここ(異世界)は、地獄だ、と・・・・。


イケメン(紙)も居ない。

黒髪のっぺり塩顔も居ない。

漫画もない、アニメもない、娯楽がない、癒しがない、電気がない自由がない清潔感がない治安が良くない福利厚生がしっかりしてない多様性がないご飯が美味しくない黒髪三白眼(イケメン)がいない!!!





とまあ、こんな具合に。

私の異世界フラストレーションは日増しに高まっていって、今ではもう、すっかり行き遅れの異世界版喪女の出来上がり、というわけだ。


十四歳で結婚が許されるこの世界において、十七歳で婚約者の一人も居ないというのは、なかなかに喪っている。


が、幸か不幸か、私には四つ上の兄と、二つ上の姉がいる。


この世界で男爵家というのは、一代貴族と呼ばれる、謂わばなんちゃって貴族な訳で、名誉平民に与えられる褒賞のような家格の事を言う。


何かしら目立つ功績を作れば成り上がれるものなので、よって基本は一代限り、男爵位を賜った本人だけが名乗れる家格となり、本人が死んだ後はその嫡子や養子に男爵位を継がせることは出来ないとされている。


つまり、四つ上の兄は、男爵家を継ぐことが出来ないのだ。


なので、騎士団で平民ながらに中隊長にまで登り詰めた父の対策は早かった。



兄を王立魔法学園(エリートの巣)へ放り込み、姉をそこそこ裕福な商家へと嫁に出したのである。


兄は父には似ず、何処から見ても文官畑ですーと言った中性的な悟り系男子だ。


けれども、母に似てとてつもなく儚げな美しさを持ち、そして母に似てそれはそれは賢かった。


魔法薬学という、日本で言うところの薬理学や理工学に近い研究に没頭していた兄は、さっさとその才能を買われて王立治療研究所へと引き抜かれて行った。


この世界において、治療者(ヒーラー)というのは魔法の才能だけではなく、調剤や製薬の知識まで必要となる難関職なので、なかなかにお給料も良いと聞く。


兄が食うに困る事は一生無いだろう。


そして姉の方はと言うと、外見は父に似た彫りのはっきりとした、意思の強そうな美人だ。


高飛車に見られてしまうのが玉に瑕なのだけれど、中身は母に似て優しく賢く、女主人としてどこに出しても恥ずかしくない、良妻賢母を絵に描いたような人だ。


嫁ぎ先にも、是非にと請われて嫁いで行った。


代々続く商家を営んでいる義兄は、ちょっとふくよかでいかにもお人好しそうな、だけど少し頼りなさそうな人なので、姉はその手腕を発揮して、早くも嫁ぎ先の家を取りまとめていると聞く。


あの人も離縁とは縁の無さそうな人なので、こちらも食うに困る事は一生無いだろう。



兄と姉がさっさと自立してくれたお陰で、正直なところ末の妹一人くらい生涯独身で喪っていたって、外聞的にも家の経済状態的にも何ら痛くも痒くもないのである。




・・・・ああ見えて子煩悩な父親以外には。



私達三人の子供を溺愛する父親にとって、ブランジェ家の目下の問題は、ただ、一人。



この(マリア ブランジェ)をどうするか。




「頼むから結婚しろ。」


父、ジャン ブランジェは、鷹のように鋭い、勿忘草色の澄んだ瞳を歪めて苦虫を噛み潰したように唸った。

この言葉を一体全体、この一年で何千回聞いただろうか。



騎士団では強面で通っている父は、恐ろしいほど小さくなって朝晩私を拝んでくる。


「俺だって卑しくも騎士の身分を頂いているんだ。いつ死ぬとも解らない。お願いだから、頼むから結婚してくれ。」


と、焦げ茶色の巻き毛をがしがしと掻き毟った。


これが始まると、最後には三拝し出した父を、見かねた母が連れていくというのが我が家の最近の習慣だった。


「私はマリアの気持ちが少し解る気もするけれど、あんまりお父上様を困らせては駄目よ?」


母、マルゲリータ ブランジェはおっとりとそう言うと、百合の花が咲くような美しい笑みで私を見た。


「それに、見たい景色があるならば、取りあえず玄関から一歩外へ踏み出してみなければ、ね?」


「・・・・・・・・・・はい。そうですね。」


降参だ。


実際、理想の人がいないという私の行動は駄々っ子と変わりはない。

あーだこーだ言ったところで、優しい父や母、私に甘い兄や姉に甘えて、結局は結婚や将来から逃げているのだ。

存外にそう告げると、母は面白そうにころころと笑った。


「でも、貴女は見た目だけは私にそっくりだけれど、中身は誰よりもお父上様そっくりだから、自分が納得した殿方でないと、共に歩いたりしないわよねえ。」


父に似てるなんて、その言葉だけは聞き捨てならない。


けれど母は、本当に愛おしそうに目を細めると、一つにひっつめた私の紅茶色の髪をゆっくりと撫でた。


「貴女は強くて優しい、私達の自慢の娘よ。・・・きっと大丈夫。創造神様のご加護があるわ。」


「・・・・・・加護って、女騎士になって、救国の英雄として囚われの姫を救うとか?」


私が憮然として呟くと、父が勢い良くソファから立ち上がった。


「ばぁっかもん!そんな事、俺は絶対に認めないぞ!」


騎士団では紅き王国の鷹、なんて呼ばれる英雄とは思えないほど、情けない声でわなわなと震える父を見かねた母が、


「そんな風にお父上様に八つ当たりしないで、そろそろ孤児院に行ってらっしゃいな。お昼の時間に間に合いませんよ?」


と、頬に手を当てて、困ったように微笑んだ。


「あ!そうだったわ!今日から、国境領(サングィス)から新しい子が来るのよ!忙しくなるから早く行かないと!」


私は慌ててソファから立ち上がると、父の小さな執務室のドアを開けて玄関へと急ごうとした。


「あ!こら!マリア!まだ話は終わってないぞ!」


「帰ってから聞きます!お父上様!尊き王の宝である国民の為、その身を粉にして働くのは全ての貴族の義務ですわ!では行って参りますねー!」


私は風よりも早く執務室のドアから出ると、玄関に掛けてあったエプロンを引ったくってさっさと玄関の扉を開けた。

ふ。私の勝ちだ。

きっと見合い話を懐に忍ばせていたであろう父に、してやったりとニヤニヤしながら一人、小さな庭を通って門を出る。


「マリアお嬢様。どちらへお出掛けですか?」


と、庭師兼、厩番兼、御者でもあるスーパー下働きのウィリディス マリスが声を掛けて来た。

薄く青に光る銀髪と白い肌、そして透き通った灰色の瞳が美しい、整った顔立ち。すっと通った鼻筋と、その上に乗せられたモノクルが、彼を少し冷たく、だけど一層知的に見せている。


「ウィル!お昼からどうしたの?今日は非番なの?」


その上、ウィルは三年前に入団試験に合格してからは、父の部下として騎士団に所属する騎士でもある。


ウィルは私の二つ年上で、今年で十九歳だ。

私がウィルと出会った十年前から、ウィルはずっとうちで暮らしている。


父の親友であり、同じく騎士であったマリス子爵が戦死し、母親も後を追うように病で亡くなったウィルは、父に連れられてこの家へやって来た。

歳が近かった私達兄妹とウィルはすぐに打ち解けた。中でも末っ子の私を、生真面目で優しいウィルは本当の兄のように可愛がってくれて、眠る時以外はいつでも傍に居てくれた。


それはそれは、まるで物語の中の騎士様・・・ではなく、お転婆な姫に付き従う口うるさいじいやのように・・・・・。


まあお陰で、成長するまで危ない目にも合わず、今だってこうして婦女子の身で王都をぷらぷらと出歩けるのだけれど。



「今日はちょっと早く、修道院へ向かう予定なの。例の戦争で孤児になった子達が、王都預かりになると決まったでしょ?うちの孤児院でも預かることが決まって、私が代表して修道院へ迎えに行くの。」


「それなら俺が馬車を出しましょう。今日は非番で、別にやることもないですから。」


悪いわ、と言う暇もないくらい、とりつく島もなくそう言いきると、ウィルはさっさと厩の方へ行ってしまった。


本当は凄く忙しいのに、いつまで経ってもウィルはウィルだなと思う。

昔から、口下手なのか、薄情に思える程に淡白なウィルは、会話を楽しむということを知らない人間だ。

だけれど、そのあっさりとした裏表のない性格と、こうしていつも思いやってくれる行動が、優しいウィルを表している。



「ありがとうね。」


「何か言いましたか?それより、修道院まで少し時間が掛かりますから、早く乗って下さい。」


時間厳守のウィルらしい答えにくすりと笑って、私は馬車に足を掛ける。


「あーあ。お父上様も、私の結婚より、ウィルの縁談話の方が山のように来てるでしょうに。そっちに力を入れれば良いのにね。」


途端、私をエスコートするウィルの指先がぴくりと止まった。


「・・・・・誰の縁談話ですか?」


ウィルの声が低くなる。


「俺は、まだ結婚しません。」


氷のような瞳で睨まれて、私は頭の中に???を浮かべた。


「なんでー?こんなにモテてるのに?」


私だって知っている。

街でも社交界でも、美しく有能で将来有望な騎士様として、ウィルに熱い視線を送る婦女子は大勢いるのだ。


が、当の本人は、眉間に皺を寄せてそっぽを向いている。

これは、さては・・・・・知らなかったけれど、ウィルってば私と同じく、ウルトラスーパー理想が高いのか?



「・・・・・・お互い、苦労するね。」


「なんの話ですか。」


うんうん、解っているよと頷くと、ウィルははあっと溜め息を吐いて馬車のドアを閉めた。


ちょっとレディに対する行動とは思えないけれど、まあ良いだろう。同病相憐れむと言うやつだ。許してやろう。


「絶対に解ってない。」


ドアの向こうからウィルのそんな声が聞こえた気がするけれど、何はともあれ、馬車は動き出した。


目的地は修道院。

そこで、新しく迎える、可愛い子供が待っている。



マリアの子煩悩おやじさんの階級は騎士団長としてたんですけど、解りにくいかなと思って便宜上中隊長としました。


イメージとして、この時代には一つの国のなかに沢山の騎士団があります。

国王が持ってる騎士団もあるし、有力貴族もそれぞれ騎士団持ってたりします。規模が違うだけです。


一応、中隊長は他所の有力貴族のところの団長と同格なイメージを持っておいて下さい。


この国では騎士は栄誉職でもあるので、団長というのは貴族しかなれません。

中隊長でも、平民がなれればすげーことです。アイス○んじゅうがガリ○リ君抑えて小学生男子の好きなアイス第一位に輝くくらいすげーです。


アイスまんじゅうの上のところとあんこだけ死ぬほど食べたいって思ったことってあるよねー。

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