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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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4話 勇者は落胆する

「あの‥‥‥もう一回言ってもらえます?」


「だーかーらー!! あんたは三十八人目の勇者なんだってば!! これ言うの四回目!! 何回聞けば理解してくれるんだ!?」


 ガミガミと必死に説明する研究員の一人。それを愕然として聞いているのは上下とも灰色の作業着を着た男――ユキミチ。彼が何に対して愕然としているのかというと‥‥‥


「俺が‥‥‥三十八人目の勇者!? 俺以外に、三十七人も勇者が居るってのか!?」


「さっきからそうだと言ってるでしょうが!!」


「――まぁ落ち着きたまえ」


 これでもかというほどに目を吊り上げて怒号を上げる研究員を、国王ヘンドルが宥めに入った。ヘンドルは研究員の背中を(さす)りながらユキミチに話しかける。


「君が色々と驚くのも無理はない。何せ君は我々によって――」


「召喚、されたんですよね。それは良いんです。俺が気になってるのはそこじゃなくて‥‥‥」


 ユキミチはこの光景を視界に認めてから間もなく、自分の身に起こったことを理解できた。"異世界召喚"。ユキミチが学生時代によく読んでいたライトノベルのテーマだったのだ。それまで平凡な日常を送っていた主人公が、現実世界とは大きく異なる魔法やモンスターといったファンタジーに溢れた世界で活躍する物語。


 仕事帰りで車を運転している時、茫然としていたとはいえユキミチの意識は確かに覚醒しており、冷静だった。夢と現実を見紛うほどユキミチは疲れていない。俄には信じがたい話だが、現実(リアル)に起こっていることだとユキミチは得心したのだ。


 そんなユキミチの反応にヘンドルは首を傾げた。


「異世界に召喚されたことを最初から自覚できているとは驚いた。‥‥‥しかしならば、我々が君に頼みたいこともおおよそ見当がついているとみえる。何に疑問を抱いているのだ?」


「何って、そりゃあ勇者ですよ勇者」


 何の変哲もない日々に変化を求めてしまったユキミチにとって、この異世界召喚はこの上ない好機(チャンス)である。召喚されている以上、自分はこの異世界において特別な存在――即ち"主人公"であるに違いない。


 ――と、このように夢と希望に満ち溢れ、俄然と気分が高揚した彼に言い渡されたのが、"三十八人目の勇者"という肩書きだった。


「魔王軍に立ち向かう勇敢な戦士! 世界の英雄! そんな勇者が俺で三十八人目って!! 主人公多過ぎでしょ!?」


 ユキミチは両手を広げて強く言い放つ。研究員は今にも「こりゃダメだ」と言い出しそうな呆れた表情で視線を落としていた。


 一方で、ヘンドルは心得顔でふむふむと頷いていた。


「なるほど。こちらの世界での勇者に対する認識が、君の世界での勇者に対するそれと大きく乖離していたということだな。――だがね、実際はそうではないのだよ」


「‥‥‥どういうことです?」


「我々にとっても、勇者とはそう当たり前の存在ではないということだ。もとより話すつもりだったが、"スキル"について説明しよう」


 ヘンドルは丁寧にこう説明した。


・この世界には"スキル"という概念があり、そのそれぞれが固有の能力であるということ。

・スキルは限られた人間にのみ先天的に一つ与えられるもので、スキル保有者は世界人口の一割に満たないということ。

・スキルは戦闘のみに限らず、何らかの用途で大きな影響を及ぼすということ。

・ヴァルトリア王国の魔法技術によって召喚された異世界人は必ずスキルを授かっているということ。


「君のように召喚された異世界人は、この世界では常軌を逸するレベルの能力(ステータス)を持っている。身体能力や魔力量といったものだな。その上、世界人口の一割にも満たないスキル保有者でもある。――これはもう、国の希望となる勇者であると言う他ないだろう?」


「‥‥‥その言い様だとつまり、"召喚してみたらなんか強かったから、異世界人たちを『勇者! 勇者!』と崇め煽てて王国に協力させた"って経緯(いきさつ)ですか」


 ジト目を向けながら推察するユキミチ。ヘンドルは困った表情で首を横に振る。


「それは随分と悪い言い方だな‥‥‥。まぁ概ねその通りではあるが。別に煽てているつもりはない。君たち異世界人の能力(ステータス)の高さは、紛れもない本物なのだから」


「ふむ‥‥‥能力(ステータス)の高さ‥‥‥」


 しばらく落胆していたユキミチだったが、ヘンドルの言葉を反芻し、すぐに考えが改まった。そこに光を見出だすことができたのだ。


 唯一無二の主人公でこそないものの、強力な能力(ステータス)とスキルがあるのならば、やはりこの世界で活躍できるではないか! 主人公でなくとも、強靭な敵を倒したり周囲の人たちから注目を浴びたりできるではないか!!


 そうと分かるや否や、とても世界を救う勇者とは呼べないような悪い笑みを浮かべ、ユキミチはヘンドルに尋ねる。


「自分の能力(ステータス)やスキルを確認する方法はないんですか? ほら例えば‥‥‥能力(ステータス)開示(オープン)! 的な」


「あぁ、それなら――」


 ヘンドルが何かを言おうとしたところで、突然にユキミチとヘンドルとの間に一枚の薄い"画面のようなもの"が出現した。


 不意を打たれるような出来事に、ユキミチは思わず全身をビクリと震わせながら後退りした。


 恐る恐る顔を近づけて画面の中を覗き込んでみると、そこには何かが表示されていた。


「――そう、君が今やったように『能力(ステータス)開示(オープン)』と唱えれば、自分の能力(ステータス)を確認することができる。‥‥‥まったく、君は鋭いな。この世界への順応が恐ろしく早い」


 ヘンドルはそう言うが、この異世界に適応できるようなユキミチの言動のほとんどは、ユキミチが学生時代によく読んでいたライトノベルに由来するものであり、ユキミチ自身の順応性はあまり関係ない。‥‥‥が、褒められるのは悪い気がしないので、ユキミチは黙ったまま自分の能力(ステータス)を確認していた。


「――王様」


 しばらく能力(ステータス)を眺めた後に、ユキミチはヘンドルを呼んだ。


「何かね?」


「王様には悪いけど‥‥‥俺、自分のやりたいように生きることにします」

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